「講談社コミックプラス」に掲載されたヤンマガ作品のレビューをご紹介!!
『犬と屑』作:朝賀庵
自分より全てにおいて上で、華々しい人生を送る幼馴染・秀司。冴えないサラリーマン・陽真は、昔からその存在にコンプレックスを抱いて日々を過ごしてきた。そんな時、陽真は偶然秀司の妻・麗香と再会する。彼女は、陽真が学生時代から密かに憧れていた存在。羨望と嫉妬、そして××によって、陽真の繰り返しの日々に“秘密”が生まれていく――。
羨望と嫉妬・・・・歪んだ男女の紡ぐ愛憎劇
ヒーロー願望を持つ男性は多いはず。憧れの女性の役に立ちたい。守ってあげたい・・・・。でも、もし彼女に昏(くら)い秘密があったとしたら? 『犬と屑』は、冴えないサラリーマン・桜庭陽真と、学生時代に密かに憧れていた麗香、その夫の秀司の関係を描く。今一番続きが気になる、考察したくなるサスペンスラブストーリーだ。
「お隣のシュウくん」が自尊心をゴリゴリ削る。
主人公の陽真は、先輩からは「地味~で変な後輩」呼ばわりされたり、何かといじられがちな、いわゆる「陰キャ」だ。
実家の母親にまで「お隣のシュウくん」と比較され、ディスられる始末。
「ハル」と名付けた犬を子供のように可愛がり、怪しい水やサプリを次々買い求める母に、いまいち強く出られない陽真。だってそんな母の依存は、陽真が中学受験に失敗した頃から始まったから。でも、母が何かと比較してくる「お隣のシュウくん」がいなければ、ここまで言われなかったかも。
実家の母親にまで「お隣のシュウくん」と比較され、ディスられる始末。
「ハル」と名付けた犬を子供のように可愛がり、怪しい水やサプリを次々買い求める母に、いまいち強く出られない陽真。だってそんな母の依存は、陽真が中学受験に失敗した頃から始まったから。でも、母が何かと比較してくる「お隣のシュウくん」がいなければ、ここまで言われなかったかも。
「お隣のシュウくん」とは顔よし、頭よし、人望ありの幼なじみ、犬飼秀司。嫌味なぐらいになんでも持っている、スクールカーストのトップに輝く存在だ。
異性にモテるのはもちろん、そのキラキラぶりで同性の嫉妬さえ寄せ付けない秀司。彼が高校で知り合った彼女の鷲見麗香もまた、多くの男子の憧れだった。
中学時代は女を取っ替え引っ替えしてきた秀司も麗香とだけは別れない。モテるって、いいことばかりじゃない。普通の人にはわからない面倒もある。モテる人間同士が一緒にいるのは自然なことだから。
異性にモテるのはもちろん、そのキラキラぶりで同性の嫉妬さえ寄せ付けない秀司。彼が高校で知り合った彼女の鷲見麗香もまた、多くの男子の憧れだった。
中学時代は女を取っ替え引っ替えしてきた秀司も麗香とだけは別れない。モテるって、いいことばかりじゃない。普通の人にはわからない面倒もある。モテる人間同士が一緒にいるのは自然なことだから。
有名大学へ進学して、ごく自然に麗香と結婚し、順調で華々しい人生を送る秀司。
周囲からはモブ扱いされ、「年齢=彼女いない歴」である陽真は、彼らをうらやみながらも「俺はお前らとは違うんだよ」と心に壁を作る日々。
周囲からはモブ扱いされ、「年齢=彼女いない歴」である陽真は、彼らをうらやみながらも「俺はお前らとは違うんだよ」と心に壁を作る日々。
陽真だって、普通に働いているし、地味ながらも整った顔をしていると思うのだけど、びっくりするほど自尊心が低い。キラキラの幼なじみは、陽真にも優しい。でも、陽真にとっての秀司は憧れの存在ではなく、自尊心を削ってくる存在でしかない。
「ほうっておけない」が思わぬ方向へ
ある日のこと。雪で足を滑らせ、転倒した彼の前に現れたのは、結婚して、東京で秀司と暮らしているはずの麗香だった。
相変わらず美しいけれど、顔色がさえず、影のある様子の麗香。どうして1人で北海道にいるんだろう? 麗香からお茶しようと誘ってきたのに、会話は弾まず、秀司のことを聞いてもどこか様子がおかしい。
不穏な雰囲気に動揺しつつ、陽真は「今日は漫喫に泊まる」という彼女をほうっておけず、自宅に泊まるよう勧める。やるときはやる陰キャなのだ。
決して手が届かないと思っていた麗香と、世界に2人きりのような気がする夜。秀司がいないとダメな麗香のことを、ずっとずっと好きだった。そのことを改めて自覚する陽真。しかし秀司は・・・・。
翌朝。夫婦喧嘩でもしているのだろうか? 秀司の「悪い癖」を知る陽真は、もう一度探りを入れるが撃沈。
天然かわざとか、嘘はつかないけれど答えたくない質問は全部無視する女性はわりといる。
モヤモヤするけど「言いたくなかったらいいから」なんて、助け舟を出してしまう。惚れた弱みってそういうこと。
高校時代を思い出す。時折、顔に傷を作っていた麗香や、秀司の浮気のことも。
最後に会ったのはずいぶん前だけれど、その時も麗香は秀司のことで悩んでいた・・・・。
最後に会ったのはずいぶん前だけれど、その時も麗香は秀司のことで悩んでいた・・・・。
誰もが羨(うらや)むキラキラカップルにも、近くで見れば影の部分はあった。だから、あれこれ聞くことは、麗香を傷つけるかもしれない。大事なことは聞けないけれど、彼女の支えになりたい・・・・。思わず、麗香を呼び止めて東京までついてきてしまう陽真。イイやつだなって思いますか? まっすぐだけどなんかちょっと怖い。麗香もどこか迷惑そう。
そんなとき、夫婦の部屋に空き巣が入ったという連絡が入る。荒らされた部屋に壁の穴。
「秀司に連絡した」という陽真に、警察の聴取で疲れ果てながらも、「なぜ?」と血相を変える麗香。そこで陽真は初めて麗香の口から「秀司はあの部屋に戻ることはない」ことを聞く。
「秀司に連絡した」という陽真に、警察の聴取で疲れ果てながらも、「なぜ?」と血相を変える麗香。そこで陽真は初めて麗香の口から「秀司はあの部屋に戻ることはない」ことを聞く。
そしてその夜・・・・。
「屑」は誰だ
サラッと読むと、自尊心低めの地味な主人公が、秘密多めの憧れの女性のために奔走しているように見える本作。しかし、麗香の内心を表すモノローグがないので、読者も陽真と一緒に彼女に振り回されてしまう。
そして、随所にちりばめられた一筋縄ではいかない不穏なコマ。自分のコートを捨てたかどうかも記憶にない陽真、路地裏に横たわる秀司。麗香の顔のあざ。夫婦の部屋に、空き巣関係なく「元から」あいてる壁の穴。そして陽真以外の登場人物がみんな知っている「ある事実」。
各回ラスト1ページで衝撃の展開を迎えるこの漫画。7話を読み終えた後は「ん? どういうことよ???」と、最初のページに戻らずにいられなかった。人物像が揺らぐ。時々覚える違和感にも、意味があるのかないのか・・・・。正直なところ、何度か読み返しているのにまったく先が読めない。憧れの女の秘密に翻弄される陽真こそが「屑」ではないとよい。先が知りたい。続きが読みたくて身もだえる。
※こちらの記事は講談社コミックプラス11/16更新の記事を再編集したものです。
レビュアー / 中野亜希
※こちらの記事は講談社コミックプラス11/16更新の記事を再編集したものです。
レビュアー / 中野亜希