ヤングマガジンでの連載終了から約10年の時を経て、『軍艦少年』の実写映画化が実現。作者・柳内大樹が、大切な家族を失った父子の喪失、再生へと向かう姿をとことん熱く、魂を込めて描いた作品である。本作品の公開を記念して、柳内大樹と主題歌を担当した卓真(10-FEET)の対談をお届けします。親友である二人が、作品への思い、友情、そして大切な人の死との向き合い方まで、飾ることなく真っ正面から語り合いました。


大事な人が亡くなった時に、元気になるために読んでほしい作品


――今回、映画化の話を受けた時の感想とは?

柳内大樹(以下、柳内) この『軍艦少年』はすごく気持ちを込めて描いたんですけど、全然売れなくて(笑)。一番売れてほしいぐらいに思っている作品だったんです。そんな思いを持ち続けていたところ、友人である映画プロデューサーから「ぜひ、映画化させてくれ」と言われて「おう、やれやれ!」と。映画になることでマンガを知ってもらって、もっといろんな人に読んでもらいたいんですよ。みんな大事な人がいるけれど、人間は絶対に死を避けられない。だから、大事な人が亡くなった時に、落ち込んでばかりいないで元気になるために読んでもらえるとうれしいなと思います。

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――卓真さんが主題歌を担当することになった経緯、10-FEETではなく初のソロ名義での楽曲提供となったのは、どのような理由からなのでしょうか?

卓真 これが面白いと言うか不思議な縁を感じる話で。福岡県から長崎県に移動中の電車に乗っている時に、大樹から電話がかかってきて。それが『軍艦少年』を映画化するという話だったので、むっちゃびっくりしたのを覚えています。作品の舞台である長崎に向かっている時に話が来るのかと。それも「頼みたいことがあんねん。『軍艦少年』が映画になるから曲書いてくれや」みたいな、まるで飲みにでも誘うような感じで(笑)。すごいことをサラっと言うなと思いながら「ええの? 俺なんかで」と聞き返しましたね。

柳内 卓真は、同い年でやけに気の合う存在。歳を取ってからできた数少ない友だちの一人というか、親友なんですよ。喋っている声も好きなんですけど、とにかく歌声が好きで。もう卓真以外は考えられなくて僕から頼んだんです。

卓真 そう、「バンドやなくて、お前なんやわ。一人でやってほしい、卓真で作ってほしい」と言ってくれて。

柳内 もちろん、10-FEETというバンドも大好きなんですよ。でも、バンドっていろんな音が重なるじゃないですか。とにかく卓真の声が好きだから、声が前面に出てくるような、シンプルな曲にしてほしいという意味だったんです。

卓真 大樹と仲良くなったのは、僕ら10-FEETがやっている「京都大作戦」という野外フェスの打ち上げだったんです。音楽の現場ではあったけど、すごく個人的な会話を交わして、すごくリズムがあったと言うか、なんか個々で繋がった感があって。マンガや音楽の話をするようになったのは後々のことで、それもたまにしかしない。ほとんど個人的な話ばかりしているから、友だちになった延長線上で頼んでくれてるんやなというのが電話の内容ですぐわかって。だから素直にうれしかったし、良い曲を作って気持ちに応えたいなと思いましたね。


――主題歌の『軍艦少年』は、どのような思いを持って作られたのですか?

卓真 まず、大樹の思いを全力でキャッチして、全力で投げ返さないとあかんなと。原作はずいぶん前に読んでいたので、原作を感じながらイメージして作る気持ちと、原作には全く関係ないけれど自分が今まで生きてきた中で思ったこと、感じたことの総括というか。半分は自分のこと、半分は大樹と『軍艦少年』のことを考える。この2つを意識しながら作っていきましたね。

柳内 イメージ通りの曲になってました。たぶん、100回くらい聴いていると思うんですけど、卓真の声を聴いていると安心するというか心地良いんです。今回の曲もとにかく良かった。映画の最後に流れる曲として、すごくしっくりきましたよね。


原作が持つテーマからブレることなくさらに映画としてスケールアップ


――お二人とも、すでに映画をご覧になったと思うのですが、感想を聞かせていただけますか?

柳内 すっごい良かったです。めっちゃ泣きました。よく、「原作を超えられるか」とか言われますけど、完全に超えたなと思いました。ホント、素直にマンガを超えているなと感じました。面白いし、泣けるし、元気になる。とにかく、主演(海星役)の佐藤寛太くんがハマりまくっていて。撮影中の現場にも行かせてもらったんですけど、役者さんもスタッフさんも全員が一丸となって作品に取り組んでいる姿を見て、グッとくるものがありましたし、佐藤くんの本気度にも感動しましたね。

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卓真 佐藤くんもめっちゃハマってたけど、玄海役の加藤雅也さんが、もう原作からまんま出てきたような感じでびっくりしました。


――特に印象に残ったシーンとは?

柳内 玄海が手紙を読むシーンですね。マンガでもそこは一番伝えたかったところなので。このマンガを描く前に、僕の知り合いが大事な人を亡くしたんですよ。その人から「私も、もう死んでもいいわ」みたいなことを言われたことがあって‥‥。死後の世界のことなんてわからないけれど、もしかしたら亡くなった後も近くにいて、その人を見守っているかもしれない。亡くなった人が何を望んでいるかと言ったら、遺された人が元気で楽しく生活していくことだと思うんです。でも、口で言っても伝わらないから、マンガで描こうと。そんな思いから生まれたのが『軍艦少年』なんです。その一番の核の部分を、監督も脚本家も役者さんやスタッフさんもわかってくれていて、一つの方向に向かって行ってくれたと思います。

卓真 僕は病院にいる玄海が息子の海星を探すシーンですね。玄海にしてみれば奥さんである小百合さんの側にいてあげたいけれど、危篤状態の中で海星の名前を呼んでいる奥さんを見ていると、父親として息子を探して連れて来る義務もあると感じてしまう。夫と父親、両方の立場で考え、苦しんだ結果、父親として悔いのないような選択をして、全力で走り回って海星を探すという‥‥。
すごく印象に残るシーンでしたね。


大切な人の最期とどう向き合うか改めて考えるきっかけになってほしい


――『軍艦少年』は家族での話であり、男同士の友情も作品の中で大きなテーマになっていると思うのですが、お二人が考える男同士の友情とは?

柳内 僕は心を全部さらけ出さないと嫌なタイプなんですよ。相手が誰であっても変わらず心をさらけ出すんですけど、そのレスポンス次第で友人に発展するかどうかがあって。もちろん、僕が心をさらけ出しても、自分をさらけ出さない人が多いですからね。その点、卓真は違ったんです。理解力が高いんだと思うんですけど、ちゃんと向き合って応えてくれる。一緒に飲んでる時に、ちょいちょい俺、泣いてるよな?

卓真 泣いてるなぁ(笑)。大樹は、ホンマに思ったことをそのまんま言ってくれると言うか。『軍艦少年』のコミックスの2巻のあとがきに、死に対しての、死と向かい合ってきた大樹の言葉が書いてあるんですけど、よくそういう話も二人でしてきたんですよ。僕らぐらいの年齢になれば、たいていの人が死生観みたいなものを持っているけれど、あえて話そうとはしない。相手が嫌がるような湿っぽい話は避けて、あえて楽しい話だけで済ませようとする人が圧倒的に多いんじゃないかと思うんですよ。僕だって、実際には思っていることを抑えて、楽しい話だけをする場面がほとんどなんやけど、大樹にはそういうところが一切なくて。初めから心をさらけ出してきてくれたから、僕も同じような思いで返しました。波長が合ったんですね。

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――友情についてお二人から「さらけ出す」という言葉が自分にとって大切であるというお話が出ましたが、表現者・アーティストとして大事にしていることとは?

柳内 僕のマンガを読んで「こういう男になりたいな」とか、作品で描いていることに共感してもらいたいと思っているんですよ。そういう意味では、共感者を増やすことを大事に考えているかもしれないですね。

卓真 共感者を増やしたいって気持ちは、僕もあるかもしれない。大樹の描くマンガに出てくる主人公って、めっちゃケンカが強いけど、めっちゃ心が弱いとか、すごく秀でている部分と欠落している部分があると思うんです。欠点があるからこそ共感できるし、ストーリーに惹かれていく。僕が惹かれてきた音楽や歌もそうですし、僕が書いてきた歌詞や音楽にも、そういう部分がある。自分の弱さや欠落している部分を受け入れたうえで、それでも逃げない心の姿勢であったりとか。それが作品に対して感情移入できたり共感につながるのではないかと思いますね。


――ありがとうございます。では最後に、まだ『軍艦少年』という作品を知らない方々にメッセージをいただけますか?

柳内 愛する人を亡くした人はたくさんいると思うんですけど、そういう人たちにこそ読んでもらいたいですし、映画も観てほしいですね。もし自分が死んだなら、遺された人たちに対してどんな思いを抱くのか。やっぱり僕は遺された人たちに楽しく生活してほしい。悲しんだままでいてほしいわけなどないんだから。遺された人にしても、亡くなった人に対してできることは、自分が幸せに生きることだと思うんです。最近、友達が亡くなったんですが、唯一僕にできることは楽しく過ごすこと。その姿をどこかで見ているかもしれないですからね。
『軍艦少年』は暗い話のように思われがちですが、そうではなくて元気になるための作品なので、マンガや映画を見て楽しい人が増えてくれるといいですね。

卓真 いま大樹が言った、自分だったらどうされたらうれしいか、亡くなった人が遺された人に抱く思いに関して僕も全く同じ考えなんですよ。さっき映画の印象的なシーンとして、お母さんが亡くなる場面を挙げましたけど、僕にも似た経験があるんです。僕はすごいおじいちゃん子で、いつも一緒に遊んでいたんですよ。おじいちゃんも僕をめちゃくちゃ可愛がってくれていて。僕が小学校1年生の時に、おじいちゃんが危篤になったんです。病院のベットで意識が薄れていく中、「卓真、卓真」と僕の名前を何度も呼んでいて。ベッドの周りに親族がいっぱいいる中、僕のすぐ目の前には点滴が何本も繋がれたおじいちゃんの腕がある。おじいちゃんが死にかけているシチュエーションが僕にはなんだか理解できなくて‥‥。「おじいちゃん、卓真やで」と声をかけてあげれば良かったのに、すぐそこに手があるんだからギュって握ってあげたら良かったのに、ちょんと触ることしかできなくて。もう、その場にいられなくなって、病院のすぐ側にある橋の上から川を見ていたんですよ。結局、その間におじいちゃんは亡くなってしまって‥‥。なんであの時、声をかけたり手を握ってあげられなかったのか。未だに悔いているんですよ。だからこそ、死んでいくかもしれない人、例えそうでなくても病気と闘っている人とかに、なるべく会いに行こうと思っているんです。で、会えたなら、自分が逆の立場ならどんな声をかけてほしいか、うれしいかを考えて恥ずかしがらずに伝える。大人になっても素直な思いで、そんなことができたらいいな‥‥ということを改めて思い出させてくれたのが『軍艦少年』でした。このマンガや映画を見て、そういう風に思ってくれる人が増えてくれたらうれしいですね。

――ありがとうございました。

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取材・文/小林 保(都恋堂)
写真/村田克己



プロフィール 

 
柳内大樹 
1975年、富山県生まれ。代表作『ギャングキング』は累計1,200万部を超える大ヒット作。ヤングマガジンでは『HASEGAWA長治』以来、『セブン☆スター』、『SEVEN★STAR MEN SOUL』などを執筆している。ほかに『ガキロック』、『新説! さかもっちゃん』、『儚いくん』、『幸っちゃんさん』など著作多数。現在は、『セブン☆スター』シリーズ第3部となる『セブン☆スター JT』を絶賛連載中。 


卓真 
3ピースロックバンド、10-FEETでVocal / Guitarを担当し、作詞作曲も手がける。地元京都を拠点に活動。全国ツアーや各地のフェス出演等精力的に活動中。10-FEET主催の京都大作戦は、毎年チケットの争奪戦が繰り広げられ、アーティスト主催のフェスを代表している。バンド結成20周年を越えた現在もピークを更新し、まだまだ進化中で突っ走っている。 
 
ソロとしての活動では、2018年頃からアコースティック編成でのライブにも力を入れていて「卓真」名義で2021年11月24日に初のソロ音源を配信。映画『軍艦少年』(12/10公開)の主題歌にもなっている。また、楽曲提供も行ってきた。 
Dragon Ash、東京スカパラダイスオーケストラ、MAN WITH A MISSION、TOTALFAT、 SUNSET BUS、Sugar Ray(US)、INSOLENCE(US)、INFINITY16等、国内外幅広いジャンルの楽曲にゲストヴォーカルとして参加もしている。 



映画『軍艦少年』


出演:
佐藤寛太 加藤雅也
山口まゆ 濱田龍臣
赤井英和 清水美沙 / 大塚寧々

監督:Yuki Saito
脚本:眞武泰徳
劇中画:柳内大樹
原作:柳内大樹『軍艦少年』(講談社「ヤンマガKC」刊)
主題歌:卓真「軍艦少年」(UNIVERSAL MUSIC)
制作プロダクション:エノン
製作:『軍艦少年』製作委員会
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2021『軍艦少年』製作委員会

12月10日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国ロードショー



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