伝説のクルママンガ『頭文字D』の意思を現代に受け継ぐ新世代のクルママンガ、『MFゴースト』。2017年の連載開始時から圧倒的な読者人気を獲得している。
当連載では、同作品内で繰り広げられる『MFG』で活躍するドライバーや、主人公・片桐夏向の周囲を取り巻く人々など、魅力あふれる登場人物たちの人となりを分析し、そのキャラクターや人物像を明らかにしていく。
第2回目となる今回は、夏向を支えるスタッフでありながら、86の所有者でもある緒方を取り上げる。初回から登場し続ける彼の整備士としての腕、性格などを解説していこう。
文/安藤修也
マンガ/しげの秀一
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■片桐夏向を支える自動車整備士
主人公をサポートするサブキャラクターでありながら、連載開始から4年以上が経過しても今だにフルネーム不詳という変わった人物設定。ただし下の名前がわからない以外、その人となりについては、登場回数の多さも相まって、読者からかなり知られている知名度の高いキャラだ。
緒方は、20代にして自動車の町工場「緒方自動車」を経営する整備士。これまでにほかの社員らしき人物が登場していないので、ひとりで経営する零細企業と思われる。そして、第1戦で夏向が賞金800万円を獲得するかもしれないとなった時に、「半分の400万円でも緒方自動車の一年分の売り上げをかるく超える」こと、そして借金があることなども告白している。
初登場したのは、第一話「英国からのチャレンジャー」の後半、主人公の片桐夏向が緒方のガレージを訪ねるシーン。サイドを刈り上げたショートヘアで、髪色も染めているようだが、無精ヒゲも目立つ。物語の進行とともに顔が丸くなっていくため、中年オヤジのようにも見えるが、24歳の相葉瞬のことを「昔の走り仲間」と言っていることから、相葉と同年代だと考えられる。なお、残念ながら「女がらみの思い出はひとつもない」そうだ。
■EV主流の時代にあってガソリン車を愛する
愛車はトヨタ 86の初代モデル。ボディカラーは赤で、緒方自身「時代遅れのスリーペダル」と言う5速MT仕様。かつて170万円の中古車として購入したが、3年前にこの86でMFGに参戦した際に予選通過タイムの30秒遅れだったことから、ドライバーとしての成功を諦めている。
ただ、クルマに対する嗜好としては、「根っから好きなんだよな。ガソリンで走るクルマが‥‥。EVなんてクソだよ」と発言していることからも、生粋のカーマニアであることがよくわかる。
もともと知人だった西園寺家から頼まれたことで、主人公・片桐夏向と知り合い、彼のMFG参戦のサポートをすることになる。西園寺家の娘、恋(れん)のことを子どもの頃から知っているということで10年以上前からの知り合いのようだが、参加エントリー、そしてマシンの貸与まで引き受けている。
ちなみにこの86のエントリー時、40番以降のゼッケンはフリーで早い者勝ちだったため、「86」番を運よくゲットできたそうだ。
本業は整備士だけに、各ラウンドの前後には86のメンテナンスを担当し、MFGの予選、および決勝レースでは、セコンドブースに入って無線で情報を伝達するなど、レースにおけるチームスタッフ業務をこなしている。第1戦終了後には夏向から、「あなたはすばらしいメカニックです。クルマは最後までボクの期待をうらぎることはなかったです」と高く評価された。
実際のところメカニックとしての腕はどうかといえば、まだ一流とは言えない部分があるのだが、第1戦終了後に相葉瞬の紹介で「オートショップ・スパイラルゼロ」の腕利きメカニック奥山広也と出会うと、そこから学びを得て、さらに86のよさを引き出そうとする。この貪欲さや、クルマに対する真摯な姿勢、「夏向のためにも」という思いの深さには心打たれるものがある。
■喜怒哀楽が豊かな好ましい人柄
性格は相当臆病で、感情がすぐ顔に出てしまうタイプ。夏向が第1戦の予選で15位以内に入れそうになった時には、焦りと感激の入り混じった表情を見せたし、その後もちょっとしたアクシデントがあれば明らかに動揺が見て取れた。時には涙まで流す始末だ。その一方で、「クルマなんてたとえ全損させたとしても‥‥おまえさえ無事でもどってくれたら、オレは笑ってハグする自信あるぜ‥‥」と本当に夏向のことを心配しているのも事実。
本人いわく、「ストレスで胃を痛めながら」も夏向のことを第一に考えていて、レースをサポートし続ける。第二戦で夏向が5位完走できそうになった際は、「2000万円あれば父親の入院代も払えるし工場の借金も返せる。ノドから手が出るほど欲しい」と思いかけたが、その前にやらなきゃいけないことがあると、考えを変えている。
この時に緒方が考えたこと、それは「スープラの購入」であった。夏向に貸した愛車の86はMFGのライバルである欧州ハイパワーモデルと比較して明らかに非力であったことから、夏向にハンデを背負わせてしまったと後悔しており、スープラ購入を考えたのだが、86のレベルアップを望む夏向から断られている。
緒方は、『頭文字D』で言うなら拓海の親友・イツキのような、どこか物語全体の狂言回しのような存在だ。完璧な人格を持つ夏向を支えるサポート役でいながら、どこか不安感や不安定さがつきまとう。だが、そこがいい。彼の豊かな人柄は、これからも夏向のシリアスさを補って物語を色濃くしていってくれるに違いない。