「講談社コミックプラス」に掲載されたヤンマガWeb掲載作品のレビューをご紹介!!

→『ちーちゃん』を今すぐ読む!

惡の華』『ハピネス』『血の轍』『おかえりアリス』など、独特の美しく柔らかなタッチと、心の奥底にある闇や欲望にフォーカスした作品で確固たる地位を確立した押見修造。
本作は、そんな押見と親交のある映画監督・内藤瑛亮がメガホンを取った映画『毒娘』の前日譚となるお話です。単なる映画のコミカライズではなく、映画のキャラクター原案を務めた押見が、本作でオリジナルストーリーを構築して連載作品化するという、ユニークな試み。
主な登場人物は、早川優愛(はやかわゆうあ)、航大(こうだい)、そしてちーちゃんという中学生で、この3人はクラスメイト。ちーちゃんは普段、授業に出席していませんが、出席したくてもそれができない、という感じではなさそう。
そのちーちゃんがある日、突然学校へやってくるのですが、初登場シーンから異彩を放ちます。


手には一杯の虫の死骸。授業中だろうが何の遠慮もなく自由奔放に教室をかき乱して嵐のように去っていきます。このちーちゃん、実は優愛と幼なじみです。ただし、小学校に上がってからちーちゃんは学校に来なくなり、もうしばらく会話もしてない関係性。

そんなちーちゃんをなんとか学校に来られるようにしようと提案するのが、クラスのリーダー的存在な航大。たまたまスーパーで遭遇した優愛親子と航大親子のこのシーンに、航大のキャラと航大家の親子関係がさらりと表現されています。


航大は、何をしたら周囲が喜ぶのかをわかっている器用な子。そしてリーダーらしく人を巻き込むのも上手。ただ、この時点でうっすらとした違和感が。航大(とその母親)のこの感じに、小さな危うさが漂っていると言いますか……。

ちーちゃんを学校に来させるため、まずはちーちゃんと仲良くなろうと画策する航大は、ちーちゃんの家に遊びに行こうと提案。ちーちゃんと幼なじみの優愛に声をかけさせて、遊ぶ約束を取り付けようとします。「人を使うことにこなれている」航大のこの感じがまたなんとも嫌な感じ。

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無事ちーちゃんの快諾を取り付けて、遊びに行くことになるふたりですが、彼女の家、まともではありませんでした。

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親は不在、かと思いきや――


ゴミ屋敷の中で平然と暮らす両親に、ある種のホラーを感じます。日常に潜む違和感がもたらす心のざわざわもまた、押見作品の醍醐味のひとつかもしれません。

さあ、ようやくちーちゃんの部屋へ到達したふたり。

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バツ印が刻まれた異様な部屋に佇むちーちゃんがお出迎えです。

「何して遊ぶ?」と問うちーちゃんに対して、ゲームをしようと準備するふたり。でもちーちゃんはそんなことお構いなし。


ちーちゃんは虫の死骸を使ってブローチを作りたい様子。仲良くなるためにも、彼女の意思を尊重しようと、3人はブローチ作り。

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まずまずの出来栄えだと満足げな航大。しかし次の瞬間――



唐突なちーちゃんのハサミ攻撃と「ジョギン」の擬音が怖い! いよいよ押見劇場が本格スタートの予感です。中学生×ハサミ×流血の組み合わせは、ギャングの銃撃戦や侍による斬り合いとは違った種類の戦慄が走りますね……。

航大の犠牲の甲斐あってか、その後ちーちゃんは教室に登校します。

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ここで、なんとなく感じていた航大への違和感の輪郭がくっきりと浮かび上がる瞬間が訪れます。


自ら先陣を切って「ちーちゃんの登校」に尽力したことをべらべらと大々的にアピール。事細かに説明する様は野暮そのもの。

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手柄の主張もそうなのですが、航大が流した涙には、ちーちゃんへの思いや彼女の存在自体が感じられず、自己陶酔的なものが漂っていてどうにも心の居心地が悪いのです。そしてちーちゃんの感情など不在のまま、拍手だけが鳴り響く教室もまた、どこか空虚。

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そんな違和感溢れる空間で、何かを見透かすような視線を優愛に向けるちーちゃんのこのシーンに、物語序盤から少しずつ私の心を浸食してきた不安感はますます膨張。

本作ではこの後にもまだまだ、ビジュアル的にも心理的にもショッキングなシーンが登場します。

意思疎通の難しい、一種のモンスターのようにも描かれるちーちゃんですが、実際いびつなのは彼女だけではなく、周囲の人間もそうなのでは……と思わせる構造にハッとさせられます。あるいは人間のいびつな部分を引き出してしまうのが、ちーちゃんという存在なのかもしれません。

映画『毒娘』の前日譚ということで、本作を読んでから映画を観ると、スクリーンの中のちーちゃんという存在への理解がより深まるのではないでしょうか。一方で映画鑑賞後に本作を読むと、映画本編でのあれこれが散りばめられていて、ニヤリとしてしまうかも!?

1巻完結ながらも押見ワールドをしっかり味わえるので、押見ファンの方にはもちろんオススメなのですが、ホラーやサスペンス好きな人にもぜひ読んでほしい、不気味と違和感と興奮が同居する不思議な魅力のある一冊です!

※こちらの記事は講談社コミックプラス4/20更新の記事を再編集したものです。


レビューアー/ほしのん
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009 


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