1995年から2013年までの18年間、クルマファンを熱狂させ、国産スポーツカーの過去と未来を紡いだマンガ『頭文字D』。そのベストバウト、つまり名勝負を厳選して振り返るのが本稿だ。
今回は、同作品において最初のバトルとなった、ハチロク対RX-7を紹介する(第1巻 第3話「究極のとうふ屋ドリフト」より)。
文:安藤修也 作品:『頭文字D』しげの秀一著より
【名勝負 登場車種】
■先行:マツダ・RX-7(FD3S型)
→ドライバーは高橋啓介。赤城最速と称される高橋兄弟の弟にして、有名チーム「赤城レッドサンズ」のナンバー2。話し口調からして、ちょっとケンカっぱやそうな感じの、コワモテ系男子である。
→ドライバーは高橋啓介。赤城最速と称される高橋兄弟の弟にして、有名チーム「赤城レッドサンズ」のナンバー2。話し口調からして、ちょっとケンカっぱやそうな感じの、コワモテ系男子である。
■追走:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)
→作中で「ハチロク」は、主人公・藤原拓海がアルバイトしているガソリンスタンドの店長が「秋名の下り最速」と言っていた、とうふ屋のクルマのことだが、この時点ではドライバーが誰か不明である。
【バトルまでのあらすじ】
群馬県の秋名山は、地元の走り屋の聖地。ある日、“秋名最速”を自称する秋名スピードスターズに対し、近隣の赤城山からきた赤城レッドサンズが1週間後のバトルを申し込む。早速、練習走行を開始したレッドサンズの速さを見て、戦意喪失した秋名スピードスターズのメンバーは早々に山を下りてしまう。
いっぽうレッドサンズでナンバー2の実力を持つ高橋啓介は、愛車のRX-7で夜中の4時まで走り込んだ。そして引き上げようとして最後に下りを攻めていると、後方から追い上げて来るクルマが……。
【バトル考察】
第1話、第2話と静かに進んでいたストーリーは、この第3話で初のバトルが展開され、一気に劇的な盛り上がりをみせる。敵役となったのは、FD3型のRX-7。当時の現行モデルで、峠道で相当な戦闘力を持つクルマだ。
そして驚くべきことに、主役的な扱いで(この時点では誰が運転しているか不明だが)RX-7に勝負を挑んだ、というか、あっさりと抜いていったのが(笑)、なんと、連載当時すでに旧型となりつつあった、AE86型のスプリンタートレノであった。
本作品初の峠バトルとなった2台の走行シーンは大迫力で、しげの秀一先生の画力が高いことはもとより、前から後ろから、さらに横からだけでなく、上からの視点まで、あらゆる視点から峠を攻める2台の様子が描かれている。さらに、ドライバーのシフト動作や排気中のマフラーなどをクローズアップすることで、RX-7の走行感覚がヒリヒリと感じられる。 さらに、最初は車種がわからず、MR2か180SXなどと予想し、「コーナー2コも抜けりゃバックミラーから消してみせるぜ!」といかにも青春真っ盛りなヤンチャ者発言をしていた高橋啓介も、ひとつ目のコーナーのブレーキングで後方につかれ、ここで車種がハチロクだと判明して驚愕。ドライバー(といっても啓介だけだが)の変化していく表情からは、余裕→焦り→驚きといった感情がしっかり伝わってくる。もちろん、ここでもまだハチロクのドライバーが誰かわからないので、読むほうもドキドキが止まらない。
いくつかのコーナーを過ぎ、啓介が「オレは赤城レッドサンズのナンバー2だぞォ!」と叫んだ瞬間、オーバースピード気味にRX-7のインをハチロクが刺す。「この先は減速しないと谷底へ真っ逆さまだ」という啓介の心配(?)をよそに、ハチロクは次の左コーナーでリアを“左へ”振ったと思いきや、瞬時に車体方向を逆向きに変え、見事な慣性ドリフトを完成させる! 啓介の戦意が喪失した瞬間であり、見開きで展開された迫力のドリフト風景に、読者もノックアウトされた瞬間である。 主役は現行型の最新モデルではなく、当時の若者がいくらか頑張れば買えたであろう10年落ちのハチロク。明らかに非力で古いクルマが、ポテンシャルの高いモデルに挑んでいく、つまりコンプレックスのようなものを賞賛に変えてしまう、痛快ストーリーの序章であった。そして、このバトルを皮切りに、読者は『頭文字D』ワールドに引き込まれていくのである。
■頭文字D&MFゴースト情報
■掲載巻『頭文字D』(しげの秀一著)第1巻
■サイト【頭文字Dプロジェクト】、オープン!
頭文字Dを軸にクルマ関連コンテンツが集結する自動車エンタメプロジェクト【頭文字Dプロジェクト】がオープン。週刊誌「ヤングマガジン」やコミック、動画、SNSなどで発信された『頭文字D』関連情報が、このホームページで網羅できます。もちろん『MFゴースト』の情報も! オーバー!