リアルなストーリー展開で人気を博した成人漫画『カラミざかり』を青春漫画にリメイクした話題作『カラミざかり ボクのほんとと君の嘘』第1巻の発売を記念して、原作者の桂あいり先生にインタビューを実施。制作秘話や桂先生の考える「いいエロ」についてなど、詳しくお伺いしました。


『カラミざかり』とは?
これぞ夢のシチュエーションか、はたまた悪夢のシチュエーション?
主人公・山岸には、秘かに想いを寄せる同級生の飯田里帆がいた。野球部員の親友・吉野があるとき、飯田とその友人の新山を自室へ招くことに。
男女4人の同級生は、成り行きで「4人プレイ」へ。山岸が臆している間に、飯田里帆は目の前で、吉野に初体験を奪われてしまう……。

桂あいり先生の大ヒット作品『カラミざかり』は、強烈なエピソードで物語の幕が開く。
胸を掻きむしられるような心情が読者にひしひしと伝わるからか、作品は公開後すぐに大きな反響を呼んだ。


全編ズルズル同じテンションで進むストーリーを描いてみたかった


 ーー 『カラミざかり』が広くウケている要因を、桂先生ご本人はどう分析していますか?

桂あいり先生
いえ、正直わかりません……。自分としてもこれほど皆さんに読んでいただけるとは、思ってもいなかったので。
強いて言えばこの作品は、きれいにまとめようとしていない。そこに共鳴していただけたのかもしれないし、そうだとしたらうれしいです。


ーー きれいにまとめようとしていない、とはどういうことでしょうか?

桂あいり先生
平たく言うと、よくあるパターンやテクニックに走らないようにしてつくっています。
最初に引きのある絵を出して、話の展開は目一杯に起伏をつけて、としたほうが本当は漫画として成立しやすい。
でも今回はそのあたりを気にせず、自分の思うままに描いています。


ーー 思うがままに、どんな作品を描き出したかったのですか?

桂あいり先生
漫画の定番たる山あり谷ありのお話ではなく、ズルズルと同じテンションでいくというか、私たちの日常そのままの温度でずっと進む話を描きたかった。

そのほうが現実感が強まって、『こういう感覚や気持ち、なんか知ってる。わかるわあ』と読者に作品へ没入してもらえるんじゃないかと思って。

それで女の子のカラダも、すごい巨乳だとかあまりデフォルメせず、ストーリーを邪魔しないような描写にしたり。漫画表現としてうまくハマるかどうかわからなかったけど、自分としてはそういうものが読みたいなという気持ちがあったんです。


だからなのだろうか、『カラミざかり』はどのシーンをとっても妙に生々しい。「4人プレイ」が始まってしまうときも、「全員のテンションが上がりまくって勢いで……」というのではなく、淡々とヌルリと、気づけばそういう状況になっているのがリアルだ。


桂あいり先生
そのエピソードは冒頭にくるわけですけど、あそこのシーンが一番描きたかったところなので、描き切れたときは『やった!』という気分になった。
あのシーンを経ることで彼ら彼女たちのキャラクターもしっかり出せて、そのあとの展開は『彼らならこんなときこうするだろう』と、無理なく想像して進めていけました。


ーー 各キャラにそれぞれモデルはいるのでしょうか。

桂あいり先生
ズバリそのままの人ではないですけど、状況やキャラの素となる出来事や人は、自分のこれまでの体験から探し出してきました。
高校の同級生に、ああいうノリの野球部員っていたなあとか。そういえば修学旅行のときの夜の部屋で、なんか妙な雰囲気になったことがあったなとか。




私が描いていない部分を、読者に脳内で補完して欲しい!


ーー 『カラミざかり』は「エロ」も「ストーリー」も、これ以上ないほど濃厚そのものですよね。このふたつの要素を両立させた作品というのは、他になかなか例がないと思います。これは狙ってやったものなのでしょうか?

桂あいり先生
エロに至るまでの部分をしっかり描きたいというのはありましたね。
裸がボンッと出てきて、さあどう?というのもいいけど、いわゆる行為以外の部分でいかにキャラに感情移入できているかで、エロの濃さってすごく変わってくるので。
没入できるストーリーというのは、エロをより鮮烈にするための最高の演出になるはずと思っています。


エロがより盛り上がるストーリーをつくるのは、実は読者自身なのだとも、桂先生は言う。


桂あいり先生
キャラのモノローグとか心理描写とかセリフを、私はあまり描き込みません。読者の方の想像力が働く余地を残すためです。描いていない部分を読者が脳内で補完して、自分の好みにぴったりのストーリーをつくり上げてくれたらいいなと思うんです。

『カラミざかり』のストーリーがいいねと言ってもらえるのだとしたら、それは読む側の力。『いいストーリーを創ってくださってありがとうございます』と声をかけてお礼を言いたくなります。描き込み過ぎずに作品を描くのは、『絵も話もスカスカじゃないか』と批判されそうで怖い部分もありますよ。でも私自身、固まっていないフワフワした状態のほうによりエロスを感じるところがあるから、ついそうしてしまう。

付き合っているか付き合っていないか微妙な関係とか、行為に及ぶか及ばないかの瀬戸際とか、中途半端なのが一番ムラムラする自分のクセが出ているのだとも言えますね。

ーー そもそも桂先生は、なぜ漫画家になろうと思ったのでしょうか。そして「エロ」をテーマに据えているのはなぜですか?

桂あいり先生
小さいころから描くのは好きで、高校生のときにはアートの方面に興味を持って右往左往していました。

でも色々な人の絵を見るうち、自分は自分の芸術的感性を磨きたいというのとは違うなと気づきます。私は絵というものをもっとこう、コミュニケーションツールのようなものと捉えていたので。大人になるまでずっと対人関係が苦手で、自分の絵を通してようやく人に目を向けてもらえていました。

私にとって描くことは、人とつながる大事な手段だったんですよね。伝わるものをつくること、自分と他の人が共有できるものを描くことをしたくて、イラストレーターとして仕事を始めました。

そのころに、実話系の雑誌から声をかけてもらったんです。読者の体験談を2ページくらいの漫画にしませんかと。それをやっているうち、連載にしましょうと言ってもらえて、漫画を描くようになっていきました。エロを描くことになったのは偶然でしたけど、やる以上は責任を持っていいエロを描くぞ!と思ってやってます。


ーー桂さんが思い描く「いいエロ」とはどのようなものですか?

桂あいり先生
やっぱり即物的なエロというだけではなく、人の心に刺さり、精神をえぐるようなものですかね。
AVなんかでも、記憶に残るのってズキズキした痛みを伴う作品じゃないですか? なんか心が痛い、でもまたすぐ見たくなるものってありますよね。それって自分の性癖を歪められたり、価値観を広げてもらえたりしているということなんじゃないか。
いずれにしても自分にとって新しい世界の扉が開かれるような体験です。そういう体験ができる作品、自分でもつくっていきたいです。


ーーとなると、これから描きたい作品とはどのようなものになりますか?

桂あいり先生
たとえば『北の国から』みたいな作品は、つい目標として頭に描いてしまいます。
いえ、何もキャラクターや状況をマネるというようなことじゃなくって、フィクションなのにドキュメンタリーのようなリアルさを保っているあの雰囲気を、見習いたいなとよく思ったりするんです。

頭の中だけでこねくり回した作品にしたくはないから、けっこう外に出ていろんな人を観察することも多いですよ。ショッピングモールに出向いて、フードコートで遊びに来てる高校生たちをぼんやり眺めたりとか。

現実からも先行作品からも吸収できるものは何でも吸収して、没入感をよりいっそう味わってもらえるものを描けたらいいですね。





『カラミざかり ボクのほんとと君の嘘』第1巻は本日3月18日発売!