5月31日(月)ヤングマガジン29号にて、第84回ちばてつや賞受賞作品が発表された。
ヤンマガWebでは、全17受賞作品を一挙公開中! また、ちばてつや先生による選評も掲載!

ちばてつや先生総評

どの作品も画力があり、緻密でリアルな、表現力豊かな作家が揃いました。
ただ、皆すべてのコマに力を入れすぎており、お話も絵も濃く、重く、読みづらくなってしまっていたのは残念。
普段の日常は軽く、ここぞ!!という場面をリアルにしっかり描きこむ、というコントラスト&リズムを覚えるとよいかと思います。
これからが楽しみな作家ばかりでした。

大賞


『美人は3日では飽きない。』 石田ゆう(24歳)福岡県
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ストーリー
出逢いを求めて男女が集まる居酒屋で、ハイスペック男と並んで切ない思いをしているフリーターともや。美人に対してコンプレックスを持つ彼だが、酔いつぶれていた美女を家まで送っていくことになってしまう。彼女の家のドアを開けたことで、彼の世界はゆっくりと広がっていく。

ちばてつや先生選評
ちょっと卑屈で自己評価が低い現代の若者たちの、何とも言えぬ愁いを帯びた表情や演出、画力に非凡さを感じるね。あんなに望んでいた「就職」がやっと決まったのに、ここで断るのか!!と読み手の皆がハラハラ、ドキドキ、イライラもしたと思う。が、それほど大事な人を見つけた二人の未来に一縷の光を感じさせていて少しホッとする、読後感を貴重とするかな。



優秀新人賞


『愚狗の子』 大山満千(33歳)神奈川県
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ストーリー
実の父親に殺されそうになっていた少年、ミチオは殺し屋のタオに命を助けられ、それから自身も殺し屋としての道を歩み始める。殺し屋の才能を開花させていくミチオを見てタオは一抹の不安を覚えるが、不器用な男同士の意思疎通は上手く行かず、二人の関係は危うさを増していく。

ちばてつや先生選評
非日常な殺し屋の裏社会を超リアルなタッチで克明に描いているね。主人公「ミチオ」の両親も只者ではないが、父親殺しをさせた「タオ」も焼き鳥屋の「おやじ」も強烈な個性の持ち主で、見るものをぞくっとさせる凄みを感じさせる表現力は魅力だ。キャラクターのセリフもハードボイルド的センスで一気に読ませてくれた。導入部のタオから「父を殺すか自分が死ぬか」とピストルを渡された時、何故タオに銃口を向けなかったのか、その一点が心に引っかかったままなのが残念。



準優秀新人賞 3名



『たたかうおじさん』 あおいりか(27歳)茨城県
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ストーリー
42歳独身の男、正和は20年間ずっと、かおりという女性に片想いをしている。思いを伝えることができず、ひっそりと差し入れだけを続けている正和だが、ある日かおりの娘である愛梨にストーカーだと勘違いされてしまう。最悪の出会いをした二人だが、誤解が解けた後はかおりに20年越しの想いを伝える作戦のパートナーとなり協力することに。

ちばてつや先生選評
とてもいい話なんだけどなあ‥‥。何年も前から、知り合ってはいたけど、告白できない健気なおじさんのとる行動が、可愛いのだが少し唐突でキャラクターの気持ちに入っていけなかったぞ。作者としては話を面白くしようと、ちょっと演出をオーバー気味にしてしまったのかな。もう少し静かな展開にして、最後にホッとさせるくらいにした方が、読み手の心に沁みた内容だと思うよ。



『ゆけ!日果さん』 井戸畑机(26歳)東京都
ストーリー
何でも器用にこなせるが故に、予定をパンパンに詰め込んでしまう日果さん。そんな彼女は母親の気まぐれで、南極の郵便局で働くことに。日本と大きく違う環境に戸惑いながら、それでも彼女は自分らしく南極に適応していく――。

ちばてつや先生選評
主人公のキャラクターにとても良い感じの個性と魅力を感じたよ。ラジオ体操の歌に合わせた導入部の演出や、セリフのやり取りにリズムがあって入りやすかった。広大な南極の表現も見事。只、日果の日課、ルーチンにこだわる主人公を通じて、読者に何を伝え、感じさせたいのか? 作者のメッセージが伝わりにくかったな‥と惜しまれる。



『あっけ』 登坂一颯(21歳)東京都
ストーリー
俳優の卵、有間は25歳になっても芽が出ずに焦っていた。そんな中、ハウスクリーニングのバイトで訪問した老人の家で、2000万円もの大金を見つけてしまう。「これがあれば10年は俳優業に専念できる」そう考えた有間は、気づいたときにはその金を自分のものにしてしまっていた――。

ちばてつや先生選評
登場人物のひとりひとりの生き様や夢がたくさん凝縮され、詰まっている話なので、ついセリフも多くなり、とても濃く重い作品になってしまった。背景のごみ屋敷の描き方やおばあさんの表現、主人公の成長など、魅力ある演出や素質があちこちに見えて、これからが楽しみな作家。



佳作 4名

編集部選評
キャラクターが可愛いらしく、彼女たちの成長を応援したくなる作品。構成のまとまりも良く、良い話になっているが、記憶に残るページが欲しかった。3人組のキャラが差別化できていなかったので、3人出すならばキャラの描き分けを意識してほしい。



『はらまずともやどる』 ナキエイドー(25歳)東京都
編集部選評
高感度と共感度が高いキャラクターを作れていて、登場人物たちに感情移入できた。作者の描きたいことが明確になっているのはよかったが、「伝え方」にはもっと工夫が必要。セリフが中心になっており、具体的な出来事としては薄味になってしまっている。



『完璧な庭』 小野未練(21歳)愛知県
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編集部選評
とても独特な世界観を持ちながら、現実と繋がっているようなリアリティのある作品。粘菌によって人でなくなった姉には驚いたが、”足を直さない”という一点でドラマとして成立していた。吹き出しの位置がガチャついているページが多かったので、読みやすさにもっとこだわってほしい。



『ボーイズ・ピー』 たなまん(24歳)東京都
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編集部選評
バカバカしいノリと、男同士の友情と、青春の笑いや悲しさが入っていて、贅沢な作品だった。是非とも世に出したい才能。親友に変装がなぜバレないのかなど、リアリティの作り込みの甘さが気になり、物語への没入感が阻害されてしまっていたのが残念。



期待賞 8名



『夕闇不動産』 梶本祐希(29歳)大阪府
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編集部選評
居場所を獲得するというテーマが一貫して描かれていて、読みやすい作品だった。ピンチや山場を丁寧に描いており、全体的な満足度も高かった。しかし、なぜ主人公がこの世界に足を踏み入れたかが腑に落ちず、そこまで感情移入できなかった。



『三欲のオリ』 奥村弘都(25歳)神奈川県
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編集部選評
条件付きの青春、その設定まではよかったが、予想の範囲を超える出来事は起きなかったし、彼女の姉の行動にも不自然な箇所があった。何が性欲違反と判断されて、その網目をくぐるのはどういう行動か、罰則はどんなものなのか、そのあたりのリアリティを突き詰めてほしい。



『種を踏む者』 前野温泉(22歳)愛知県
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編集部選評
「異星人がやってきて、その星のルールを破ってしまう」「同じものを見るにしても角度によって、捉え方は変わってくる」など。扱っているテーマ自体はいいが、物語がスタートラインに立ったところで終わっている。もうひと展開読みたかった。



『タヌキの神様』 コタケリョウ(25歳)神奈川県
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編集部選評
主要キャラクターの性格がとても可愛らしい。変化の能力を持ったタヌキという、題材自体は既視感のあるものだったが、変化能力の使い方にオリジナリティがあった。作品の中で成長を描くのも上手い。表情がまだ硬いので、柔らかい表情を描けるように画力向上を期待。



『戦場のテンペスト』 はむ(33歳)香川県
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編集部選評
非人道的な戦場という舞台で、あくまで人間であろうとするセンドラーと二等兵の心の交流に感動した。規定ページ数の中で展開とドラマの山をいくつも作る構成力が素晴らしい。絵力が足りずに戦場を題材にするには臨場感が足りなく見えてしまったのが残念。



『昼花火』 野火けーたろ(24歳)広島県
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編集部選評
乳首が伸びた男という一本のネタで振り切る潔さが、バカバカしすぎて素晴らしい。タイトル回収も見事。ハチャメチャな漫画と見せかけて、セリフ、構成、コマ割り、表情の機微、全てがハイレベルな作品。他の作品にも期待が持てる。



『変貌』 光紡麦(29歳)神奈川県
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編集部選評
読んでいて気持ちが重くなるエピソードを、脱皮というメタファーを用いて、悲壮なストーリーとして昇華させられている。一方、キャラクターに関しては善人、悪人がハッキリしすぎていて、人物の描き方がやや一面的になってしまっている。



『Bombyx mori』 堀鳩(34歳)北海道
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編集部選評
キャラの表情が魅力的。感情表現が抜群に上手い。自分を曲げない真っすぐな主人公を描く才能がある。女店主は初登場時にはインパクトがある強烈なキャラだったが、段々と普通の人間になってしまったのが残念。