連載期間18年の間にコミックス全48巻を刊行し、一大ブームを巻き起こしただけでなく、現在も読まれ、そしてさまざまな角度から検証され続けて、ファン層を拡大しつつある怪物マンガ『頭文字D』。

 同作品に登場したクルマたちの世界観と魅力を読み解いていく本連載。今回紹介するのは、『頭文字D』登場車種のなかでハチロクと、一、二を争うほどの人気を誇るピュアスポーツ、RX-7だ。プロジェクトDのヒルクライムのエースが駆る「セブン」の魅力をひも解いていく。

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一


デザインは現代スポーツカーの到達点のひとつ

 
『セブン』と聞けば、名作と呼び声の高いデヴィッド・フィンチャーの映画を思い浮かべる人も多いだろうが、我々カーマニアにとっての『セブン』といえば、やはり「RX-7」のことである。

 買ったことのない人、乗ったことのない人も多数いるだろうが、巷でその存在を知らない人はいないし、このクルマのことを(燃費性能以外)悪くいう人は少ない。その理由を小一時間ほど考えるにつけ、やはり「カッコいい」からに他ならないのではないだろうかと思えてきた。

マツダ RX-7(1991-2003)/全長4285×全幅1760×全高1230mm、エンジン:1.3L 2ローターターボ(280ps/32.0kgm)、価格:339万8000円(タイプRバサーストR)

 「カッコいい」とはなんともステレオタイプな表現だが、やはりデザインの良さを抜きにして語れないモデルなのである。

 そのスタイリングは、流れるような美しい曲面で構成されていながら、スポーツカー然としたアスリートっぽさがボディ全体を支配している。情緒的で色気があって目を楽しませてくれるのに、激しい走りを想像させるのだ。

 まさに、艶やかさと力強さとの融合。当時のマツダの開発陣は魔法使いか何かなのだろうか。その手腕には本当に頭が下がる思いである。30年経っても古臭くないどころか、今でもモダンであり、充分通用する。これほどビジュアルの整った日本車は、同モデル以降、登場していないといっても過言ではない。


RX-7といえばどのモデルも名作の誉れ高いが、現状、中古車で手に入れるのは難しい。2代目FC3S型はほぼ流通しておらず、3代目FD3S型もコンディションの良い物件が少なくなってきている。

 傑作デザインと呼び声の高かった2代目RX-7の後を継いだにもかかわらず、それを超えてしまったFD3S型。しかしこのクルマ、スタイリングは白眉であるが、美しさだけではない魅力も兼ね備えていた。

 それは優れた操作性であり、ロータリーエンジン搭載車という孤高の存在感である。『頭文字D』を読めば、実車のステアリングを握らずとも、そのあたりがダイレクトにわかってくる。


■縦横無尽に駆け巡る日本の傑作車


同作品において、数多くの名勝負をこなしてきた高橋啓介の愛機がFD3S型のRX-7だ。しかし、今回同車を紹介するにあたり、なぜこのバトルを選んだかといえば、対戦相手があまりにも強大だったから。平成の国産スポーツカーのなかでも、最強と讃えられるR34型GT-Rだ。 FD3Sとは、3代ほど世代の異なるマシンである。

 ドライバーは、神業のようなペダルワークを操り、“ゴッドフット”の異名を持つ星野好造。バトルの舞台となったのは、茨城県にある某峠道で、はじめにヒルクライム、上り切ったらパイロンをターンしてダウンヒルとなる複合コースだ。実は今回、このパイロンでのターンがバトルのターニングポイントとなった。

 1本目はGT-R先行でスタートし、ヒルクライムではジリジリと差が開いていくが、RX-7はその差をキープして追う展開に。ちなみにこの序盤、RX-7が1台で走る姿が多くなり、その美しいスタイリングをじっくり眺めることができるのは眼福だ。ダウンヒルに転じて、軽量で有利になったRX-7がGT-Rをギリギリまで追い詰めて、1本目はフィニッシュ。

 そして2本目、今度はRX-7先行でスタートし、1本目でタイヤにダメージを追ったGT-Rが追い抜くことは不可能と思われたが、パイロンターンの際に逆サイドから入ったGT-Rが見事な追い抜きを成功させる。この時の日本を代表する2台のスポーツカーが交差するシーンは、実車では絶対に見られない瞬間であり、ページをめくっただけで魂を振るわせるほどのインパクトがある。

 その後のダウンヒルでは、大柄なボディを振り回したドリフトで抜かせんとするGT-Rに対し、RX-7もドリフトで応戦。天才同士が、互いの意地とプライドをかけてドリフトの共演を魅せる。2人のドライバーはもとより、読んでるこっちもアドレナリンが垂れ流しになる場面だ。

 そしてラストは、ボディを接触しながらもアウトからドリフトで豪快に抜き去ったRX-7が勝利を収めることになる。


■デザインと走りのコンビネーション

 
このバトルから、啓介のRX-7は、作品初期とはだいぶ異なるパンクなスタイルに換装されている。

 ボンネットの熱処理ダクトやフロント&サイドスポイラー、リアのデフューザー、吊り下げ式リアウイングなど、派手だが、当時のRX-7としては真っ当なチューニングパーツが取り付けられた。しかし、これらがまた似合うクルマでもあるのが、傑作たる所以なのだ。
 デザインが素晴らしいのはともかく、「ロータリー」という特別なエンジンがその魅力を高めていることも忘れてはならない。アクセルを踏み込むと一気に吹き上がる気持ちよさは、レシプロエンジンでは味わえないエモーショナルさがある。

 そして、それを活かしきれるバランスの良いシャシー性能や、コーナリングで鋭い切れ味を見せてくれるハンドリングも並大抵ではない。

 たしかに特殊なクルマである。たとえば熱によるパーツの劣化やメンテ代がかさむことなど、実際にオーナーになってみれば、頬を叩かれるような思いをすることもあるだろう。それでも、ステアリングを握った時に味わえる世界観は素晴らしいものがある。

 デヴィッド・フィンチャーの『セブン』は、バディ映画の傑作だが、こちらの「セブン」も、デザインと走りの両者が抜群のコンビネーションで活躍する、日本車史上に残るクルマである。

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