連載期間18年の間にコミックス全48巻を刊行し、一大ブームを巻き起こしただけでなく、現在も読まれ、そしてさまざまな角度から検証され続けて、ファン層を拡大しつつある怪物マンガ『頭文字D』。

 同作品に登場したクルマたちの世界観と魅力を読み解いていく本連載。コントローラブルでクルマの挙動を学ぶには最高の教材だったユーノス・ロードスターは、作中でロードスターに乗るトオルをはじめ、若者たちに人生を学ばせてくれるクルマでもあった。

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一


■初めての「人馬一体」感


マツダ(ユーノス) ロードスター(NA型)(1989-1998)/全長3970×全幅1675×全高1235mm、エンジン:1.6L 直列4気筒DOHC(120ps/14.0kgm)、価格:170万円

ユーノス・ロードスターが登場した時代、日本の自動車界では、ある革命が起こっていた。日本車が本当の意味で世界から評価され始めたのである。

たとえば、セルシオ(レクサスLS)はドイツ御三家を驚かせて上質さと快適性の到達点を劇的に変化させたし、NSXはその操縦性と利便性でフェラーリなどスーパーカーブランドのクルマ造りに影響を与えたと言われている。

そんな時代にあって、マツダがロードスターを世界的な傑作たらしめた理由は、それまでの古典的でステレオタイプな「ライトウェイトスポーツ」のイメージを脱ぎ捨て、ユーザーフレンドリーな走りとデザインを採用した部分にある。

多くの販売台数を見込めないジャンルへの投入でありながら、インディペンデントな精神を貫ぬいて誕生した同車は、セールス面でも世界的に成功を収めたことで、すでに廃れていたオープンカーというジャンル自体を変容させた。

その特徴ともいえる走りの良さを生み出すために、フロントミッドシップ化による50対50の理想的な前後重量配分を実現し、前後ともダブルウィッシュボーンが採用されたサスペンションやショートストロークのシフトレバーなどを採用。

当時、5チャンネル化が図られていたマツダの販売ネットワークのひとつ「ユーノス」ブランドの誕生と同時に発売された2シータースポーツ。デビュー当初は5速MTのみの設定だった。

マツダが初めて「人馬一体」という言葉を用いて、運転技量の如何を問わず、純粋に「クルマを走らせることが好き」という精神を持つドライバーたちに応えた、真摯なクルマ造りを具現化した。

さらに言えば、扱いやすい等身大の走りが楽しめるという魅力に加え、スタイリング面でも世界的に評価が高かった。当時、流行りのリトラクタブルライトを採用しながら、コンパクトでバランスのいいボディサイズのなかに、“和”の要素も多く取り入れ、日本的な風流さや奥ゆかしさも感じられた。フロントフェイスは能面がモチーフになっているというのは有名な話である。


■等身大のエピソード



栃木県の某市、走り屋のチーム・セブンスターリーフのリーダーでもある末次トオルは焦っていた。付き合っている彼女から選択を迫られていたのだ。

彼女との結婚を考えるか、それとも今後も愛車に金をかけて走り屋を続けていくのか、決断の時は迫る───。どことなくリアルで、読者の感情につきささるエピソードである。きっと当時は、トオルのように人生と天秤にかけながらクルマを愛した若者が多くいたはずだ。

そんな読者にとって等身大の走り屋、末次トオルの愛車が、ユーノス・ロードスターである。「本来1600ccのB6(エンジン)を1800ccまでボアアップして‥‥」と言っていることから、ベース車体は1993年前半まで販売された前期モデルのようだ。

そのほか、ハイコンプピストン、コンロッド&クランクシャフト交換、フライホイール軽量化、4連スポーツインジェクションと、レスポンスの向上を狙ったチューニングが施されている。

また劇中の外観を見ると、ハードトップも取り付けているようだが、これはボディ剛性の強化を図るための装備として、当時のロードスター乗りには定番のアイテムであった。さらに、リアスポイラーとリップスポイラーなど軽微なエアロパーツも装着されている。

ただ一方で、彼女からは「お金かければかけるほどへんになってく」、「見ためだって前よりなんかボロっちぃ」と非難されているのも、またリアルで苦笑してしまう。


■人生を学ばせてくれるクルマ



そんなトオルが、ロードスターで人生を賭けた勝負を挑んだのは、主人公・藤原拓海が駆るハチロク(スプリンタートレノ)だった。軽い車体でFRと共通点が多く、ハイスピードコーナリングが身上の2台であったが、最終的にはドライバーの才能の差が勝負を決めることになる。

ロードスター先行でスタートするが、最高の走りをしていてもピタリと後ろについてくるハチロクに対して、トオルは焦りを感じ始める。

そしてコース終盤、フタのない側溝のあるエリアで、意図的に強く荷重移動させることでイン側のフロントタイヤを浮かせるという超絶テクニックを披露したハチロクが、コーナーをショートカットしてロードスターをパスしていく。それを見たトオルも、同じ走り方をトレースしようとするが、側溝にタイヤをとられて、ジ・エンド。最後は横転してしまうのだった。


ロードスターの特徴はコントローラブルなことで、それがつまり「人馬一体」な走りにつながる武器になる。

しかし、クルマに伝えようとする意思とそれをクルマに受け入れさせる技量、両者が揃って、初めてこの「人馬一体」というコミュニケーションは成り立つ。香ってきそうなほど青かったトオルの技量は拓海には及ばず、その意思もろとも霧散していく。バトル翌日、トオルは走り屋をやめることを彼女に告げた。

実はバトル前から「一番大事なのは、クルマの運転を楽しむことだろ‥‥」と語り、美しき撤退を決めていたトオル。ここからは「今までとは違ったカタチで好きなクルマとつきあっていくよ」と彼女と愛車とともに、人生の再構築を行うことになる。

運転技術、走る楽しみ、カーライフ、人生設計‥‥。ロードスターは、いい意味で、いろいろと学ぶことの多いクルマである。

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