連載期間18年の間にコミックス全48巻を刊行し、一大ブームを巻き起こしただけでなく、現在も読まれ、そしてさまざまな角度から検証され続けて、ファン層を拡大しつつある怪物マンガ『頭文字D』。

同作品に登場したクルマたちの世界観と魅力を読み解いていく本連載。最終項となる今回は、『頭文字D』だからこそ取り上げられた、クラシカルな軽量ハッチバックの最高峰、EG型のシビックを取り上げる。

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一


■若者たちの“推し”は「テンロク」スポーツ

ホンダ シビック(EG型)(1991-1995)/全長4070×全幅1695×全高1350mm、エンジン:1.6L 直列4気筒DOHC(170ps/16.0kgm)、価格:153万円


1972年にファミリーコンパクトとしてスタートしたシビックが、その後、幾度ものモデルチェンジを重ね、現在は10代目モデルで、ミドルサイズセダン(&ハッチバック)となっている。若い頃にどの時期のシビックとシンクロしたかにもよるが、5代目EG型、6代目EK型あたりを黄金期と呼んでも、それほど異論は挙がらないのではなかろうか。

5代目モデルとなるEG型は1991年に誕生。先代モデルとなるEF型も相当スポーティなイメージを残したモデルだが、なんと言ってもEG型の愛称は、そのまま直球ど真ん中の「スポーツシビック」である。

これ以上の称号はあるまい。EK型も「タイプR」のパフォーマンスで強烈な印象を残したことは間違いないが、買いやすさを含めたオールラウンドな能力で若者たちの心を掌握したのは、やはりEG型だろう。

当時はそれぞれ愛称が付けられていた歴代シビック。スーパー(2代目)、ワンダー(3代目)、グランド(4代目)ときて、このEG型は「スポーツ」と呼ばれた。ちなみにワンダーとスポーツは、日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得している。


当時のシビックのライバルといえば、日産 パルサー、三菱ミラージュなど。排気量はどれも1.6Lが中心で、「テンロク」と呼ばれて人気を博していた。

メーカーとしては、特に若者向けに開発していたわけではないだろうが、同クラスの3ドアハッチバックは、スポーティさと利便性のバランスに優れ、一般層への浸透はもちろん、峠の若者たちの推しとなっていたのである。


スペシャルなクルマに仕上げられたが……



スポーツグレードのSiRは、「B16A型」と言われるVTECエンジンを搭載。今でこそスタンダードな存在として注目されることがなくなったVTECだが、当時は、それまでの常識を変革させたエンジンだった。

このEG型シビックに搭載されたVTECも、1.6Lで170馬力ということで、1リッターあたり100馬力を突破している。

なお、作中に登場したシビックのエンジンは、圧縮比アップ/ピストンコンロッドバランス取り/フライホイール軽量化/スポーツコンピューター/EXマニホールド/スポーツマフラーなどが実施・装着され、最高出力は185馬力にまで高められている。同車の車重は1t前後ということなので、圧倒的なスペシャルな戦闘力を誇った。



 しかし、どうにもドライバーである庄司慎吾の小悪党感が否めず(笑)、実際のバトルでは、片手をステアリングに固定した「ワンハンドステアマッチ」という、FF車にとって有利なハンデ戦を実施したにもかかわらず、ハチロクに惨敗を喫することになる。シビック自体は無双の峠マシンに仕上がっていたが、主人公・藤原拓海の“キレた”走りに決定的な勝因があったことは疑いようがない。


峠の若者のドキュメンタリー




前述の通り、小物で、やられ役として登場した庄司慎吾は、コース最後のストレートで悪知恵をアップデートして、シビックごとハチロクにブツけて面目を保とうとする。しかし、あっけなく交わされ、単独でガードレースにクラッシュ。空中に跳ね上がり、車体を軋ませた、EG型シビックのファンキーな肢体を読者に披露することになる。

バトル後、静まった峠道で、ひとりボコボコになった愛車(シビック)を涙しながら見つめる慎吾の姿からは、当時の峠の若者のドキュメンタリー的な生々しさが感じられる。

誤解を恐れずに言えば、同型シビックのデザインには特徴的な仕掛けが見られない。だが、若者たちが感性を発揮したいと思わせるような、絶妙なバランスでスタイリングが構築されていた。

実際、峠でノーマルのEG型を見かけることは少なく、多くの車体が各人の嗜好に沿ったチューニングやドレスアップを施していた。そこが、将来の読めない時代に、自信を漲らせた若者たちから支持された理由だ。当時の若者たちの熱気と苦さが入り混じった名車なのである。

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