『明日のエサ キミだから』第7巻発売記念! 若杉公徳先生インタビュー!


『みんな! エスパーだよ! 』『明日のエサ キミだから』などで知られる若杉公徳先生にお話を聞きました!
アイディアの原点からお気に入りシーンまで、若杉作品の魅力が詰まっています!

『明日のエサ キミだから』 第7巻発売中!
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『明日のエサ キミだから』のアイデアはどこから?


ヤンマガWeb
学校に現れた謎のバケモノのエサ決めサバイバルから始まった『明日のエサ キミだから』ですが、作品自体のアイデアはどうやって生まれたものだったんですか?
若杉公徳
『みんな!エスパーだよ! 』のときからの担当さんと月イチくらいの連載で何かやれないかと話していて、久しぶりに会うことになったんですが、たまたまその前日に『エイリアン』を初めて観たんです。今まで観てなくて、スタッフにも驚かれたので、観てみようかな、と。
若杉公徳
それで打ち合わせでどんなものがいいかってなったときに、思いつきで『エイリアン』の話をして、ああいうものができないかなって。『エイリアン』も順番に殺されていく話じゃないですか。そこから舞台は学校で、スクールカーストのヒエラルキー順にいなくなるって付け足していって。そのまま舞台が宇宙だと難しいですからね。
ヤンマガWeb
きっかけは『エイリアン』だったんですか! カキコミなんかを見ていると、『寄生獣』(岩明均)や『漂流教室』(楳図かずお)と重ねている方も多いですね。
若杉公徳
『寄生獣』は好きな作品なので、バケモノの“ミケ”のイメージはそれがあるかもしれないですね。見た目としてはポン・ジュノ監督の『グエムル-漢江の怪物-』くらいのサイズが、大きさも速さもあっていいかな、と。
若杉公徳
『漂流教室』は全然意識してなかったですが、校舎の外で何が起こっているか分からない感じは近いかもしれないですね。
ヤンマガWeb
『エイリアン』はシリーズ作になっていますが、全部観られたんですか?
若杉公徳
全部観ましたね。どれも面白かったです。2はエンターテイメント性がすごくあって、3がよく分からない感じだったんですが(笑)、それはそれで良かったりもして。
ヤンマガWeb
シリーズなのに、作品ごとに舞台も展開も雰囲気も全然違うんですよね。そして『明日のエサ キミだから』も学校をすぐに飛び出して、予想もしない方向へ次々と物語が転がっていって。そんなあたりも『エイリアン』さながらですね。


予想のつかない怒涛の展開が面白い!


ヤンマガWeb
何せスクールカースト最下位で童貞だった主人公・笹塚宗太が外の世界に出てヒーローになったと思ったら、今度は女性だけの集団で“犬”にされてしまっていて。主人公が犬の姿になっている単行本の表紙(6巻)って、なかなかないですよ(笑)。
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犬になってしまった主人公が表紙の第6巻

若杉公徳
そんなふうになるとはまったく思ってなかったんですけどね(笑)。先の展開については最初から何となく考えてはいたんですが、決め込んではいなかったんです。ただ、どんどん話が転がっていって展開していくというのは意識していましたね。
若杉公徳
連載を始めるときに海外ドラマをよく観ていたんですが、とにかく向こうのドラマって引きが強いじゃないですか。ああいう感じにできたらな、と。衝撃的なことが次々と起こって、話が思わぬほうにいくみたいな。毎回、強引に持っていってるところはあるんですけどね。


今作における新たな挑戦は?


ヤンマガWeb
そうした予想できない展開の面白さ含めて、今回この作品では新たにこれをやってみたかったという先生の中でのチャレンジは何かありましたか?
若杉公徳
ちょっとグロいシーンを意識的に描いてみたいっていうのはありました。怪物が人を食べるみたいなシーンは、今までまったく描いたことがなかったですからね。見る側としては、そういうシーンって苦手なほうだったんです。だからこそ描いてみたいというのもあって。

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新たな挑戦となったグロテスクな描写

若杉公徳
人が食べられてしまう衝撃性や、こっちじゃなくてそっちが食われるのかっていう意外性が楽しい‥って言ったらあれですが、描いていて楽しいですね。あと、パニックものって、どこかギャグに近いところもあるじゃないですか。なんか笑ってしまうっていう、そのスレスレなところをやりたいっていうのはありましたね。
ヤンマガWeb
作品としての目新しさも多々ありながら、笑えないシチュエーションで笑いを描くというのは若杉先生の真骨頂でもありますよね。


〈引く〉と〈笑う〉のギリギリのラインが好きなんですよね。


ヤンマガWeb
第1話でまんちゃんという童貞キャラクターがエサになって、残った彼の片手を笹塚が「せめてもの」とヒロインの山吹さんの胸にタッチさせる。これ、笑っていいやら、泣いていいやら、気味悪がっていいやら(笑)。でも妙に人間くさい面白さが残るんですよね。
若杉公徳
そういう不謹慎な笑いをやりたいなっていうのはありました。笑っていいのか、ダメなのかみたいなところで楽しめればな、と。たまに「よく分からない」みたいな反応があるんです。ギャグなのか、何なのかっていう。ただ、そこは笑っていただいて大丈夫なので(笑)。〈引く〉と〈笑う〉のギリギリのラインが好きなんですよね。そのあたりはずっと意識しているところです。

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不謹慎だが人間臭い!? 絶妙なシーン

若杉公徳
昔のお笑い番組って、「これ、笑っていいの!?」みたいなものが多かったじゃないですか。『ダウンタウンのごっつええ感じ』で東野幸治が熱いかた焼きそばの餡を頭に掛けられて、「これ、ドッキリやから」っていうのを何回も繰り返すっていうのがあったんですよ。面白いけれど、「いいの!?」っていう。そういう感じが自分の中に残っているのかもしれないですね。


人間性むき出し! キャラクター作りの秘密


ヤンマガWeb
今回はパニックもので極限状態だからこそ、登場人物が丸裸にされて、滑稽で切ない人間性がむき出しになってしまうというのもあって。いい人そうに見える人ほど、イヤな死に方をしていきますよね!?
若杉公徳
そこはやりたかったところです。偽善的なことを言う人ほどひどい目に遭うっていう(笑)。本当は死にざまで笑わせるって、良くないことなんですけどね。でもだからこそ笑ってしまうということもある気がして。
ヤンマガWeb
その中で主人公の笹塚はどんなふうに作られていったんですか?
若杉公徳
主人公はやっぱりヒエラルキーでは一番下で、そういうヤツが生き延びるっていうのは最初から決まってましたね。自分のほかの漫画も主人公はそんな感じで、それしか描けないというか。そういう人が極限状態で生き残っていってしまうっていう。
ヤンマガWeb
これまで若杉先生が描いてきた主人公たちは、言っても何か一芸があったわけですが、笹塚に関してはそれもないんですよね。あるのは女の子への執着だけというか。でも、だからこそ強かったりもして(笑)。
若杉公徳
最初はバケモノを手懐けてしまう力を発揮して、特殊な感じもあってヒーローになれたけれど、結局そういう人はいっぱいいたっていう。でも、そういうキャラクターだからこそ生き残れる、生き残って欲しいっていうのもあるんですよね。笹塚はちょっとクズ過ぎるので、そこまで肩入れはしてないんですが(笑)、そうは思っています。

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バケモノを乗りこなしヒーローになったクズ主人公!


若杉先生お気に入りのシーン


ヤンマガWeb
ここまで描かれてきて、特にお好きなキャラクターや展開はありますか?
若杉公徳
学校から出たところで、たっちゃんっていうキャラクターが登場するんですが(第12話)、あの人が死ぬシーンはものすごく好きです。好きっていうのもなんだけれど、悪いことしたなぁっていう感じですね。本当にみんなのために率先して頑張っていたのに、最後は‥っていう。そのときの打ち合わせもひどかったですけどね。「たっちゃんが邪魔だなぁ」「どう殺そうか」みたいな(笑)。

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悲しい運命に襲われるたっちゃん

ヤンマガWeb
邪魔と言ったらあれですが、山吹さんの兄代わりで力も強いたっちゃんがいることで、笹塚に活躍の場がなくて、山吹さんと近づけなかったですもんね。
若杉公徳
そうなんですよ。最新刊の7巻で言うと、サメジマさんっていうバケモノ使いのおじさんのキャラクターが出てくるんですが、笹塚と戦うシーンはものすごく気に入ってます。人の生き死にで悪ふざけしているので、バチが当たらないことだけを祈ってます(笑)。


『明日のエサ キミだから』タイトルについて


ヤンマガWeb
『明日のエサ キミだから』というタイトルも秀逸ですよね。文字どおり人間がバケモノのエサになるわけですが、人間社会のヒエラルキーも匂わせていて。
若杉公徳
タイトルはなかなか決まらなかったんです。最初、『僕たちエサじゃない』みたいなタイトルにしようとしたら、否定で終わるのはイマイチみたいなことになって。でも怪物の名前にするのもちょっとなぁと考えていたら、担当さんが「このセリフ(第1話のラストでヒエラルキー頂点の酒井が放つセリフ)でいいんじゃないですか」と言ってくれて、確かに興味を引きそうだな、と。

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タイトルの決め手となったセリフ

若杉公徳
ただ、あとあと大変になったというか、学校の中にいるときは良かったんですが、今はもう明日のエサは関係なくなっていて(笑)。怪物同士の戦いでも「エサにしろ」「エサだ」って言わせて、無理やりどうにか繋げながら、ちゃんと長い目で付けたタイトルなんだぞっていうことにしています。最終回までそれを引っ張って、タイトルがうまく回収できたらいいですね。
ヤンマガWeb
最終回に向けての展開とイメージはもうすでにできているんですか?
若杉公徳
こういうパニックものってだいたいどういう風に終わるのかなって考えて、終わりまでのひとまずの展開は決めています。10巻くらいまで続けられたら嬉しいな、と。自分で描く分には、あまり長い漫画は好きじゃないんです。ものすごい反響があったりしたら、もっと引っ張って何でもやりますけどね(笑)。


印象的な読者のエピソード!


ヤンマガWeb
その反響に関して、何か印象的な意見やエピソードはありますか?
若杉公徳
ネットやアプリで読んでくれている方が多いみたいで、知り合いの漫画家の娘さんが、TikTokの広告から入って読んでくれているみたいなんです。小学生くらいの子どもさんなんですが、こんなの読んでいいのかなって(笑)。そう言ったら、その漫画家さんが「まぁ大丈夫でしょう」と言ってくれて。同じ漫画家として、読んじゃダメだとも言えないですしね。でもそんな子どもも読んでくれているということで、嬉しかったです。


マンガ執筆中のお供は?


ヤンマガWeb
制作現場についてもうかがいたいんですが、今、この作品を描くときの作業のお供になっているアイテムや作業の合間の楽しみって何かありますか?
若杉公徳
描いてるときは、だいたい深夜ラジオを聴いてますね。芸人さんの番組がほとんどで、おぎやはぎのJUNK(『おぎやはぎのメガネびいき』)とか、オードリーのオールナイトニッポンとか、最近はずっとネットで流してます。あとは、『空気階段の踊り場』とか『問わず語りの神田伯山』とか。それを聴いて、笑いながら描いてるときもあります。作業中は、孤独ですからね。スタッフがいたときは会話があったんですが、今はリモートになって誰もいないので。本当、誰もいないからさぼらないようにするのが大変です。
若杉公徳
海外ドラマや映画も観ていますが、漫画で言うと“ヤンマガ”だったら『ザ・ファブル The second contact』(南勝久)。あと“ジャンプ”だったら『チェンソーマン』(藤本タツキ)が面白かったですね。久しぶりに毎週月曜は朝から“ジャンプ”を読んでました(笑)。


デビュー7年目、これまでを振り返る


ヤンマガWeb
あらためて作品の話に戻りますが、今作はデビューから7作目ということで、ここまでご自身の漫画に変化というのは何か感じていますか?
若杉公徳
自分ではどう変わっているのか分からないですが、描くごとにどんどん変えていきたいなとは思っています。ずっと同じことをやっていても楽しくないですからね。ただ結局、主人公はいつも同じ感じなので、そこもヘタレ以外で新しくできたらいいんですけどね。
若杉公徳
今回、『明日のエサ キミだから』はやっぱり自分でもだいぶ違うなとは思います。人が死ぬっていうことに加えて、建物もいっぱいぶっ壊れていたりするので、絵からしていつもと違っていて。この漫画は、自分でも描いていて飽きないんですよ。やっぱり今までやったことがないもので、次々展開しているからですかね。
若杉公徳
僕としては最初、主人公たちがずーっと学校にいてもいいかなと思っていたんです。でもそのときの担当さんに「それは飽きます」と言われて、そのとおりだっただろうな、と。実際、いつもは繰り返しのギャグ漫画が多いので、たいがい4巻くらいでまた同じことやってるなって思うんですが(笑)、それが全然なくて。この作品は合っているんですかね、自分の人間性に。
ヤンマガWeb
それはそれで衝撃の問題発言ですね(笑)。衝撃と言えば、『みんな!エスパーだよ! 』もこれまでのギャグ路線なのかなと思わせて壮絶な一大バトルへ展開していく、これまでとまた毛色の違う作品でした。
若杉公徳
『みんな!エスパーだよ! 』もびっくりさせたいというのはありましたね。突然、連載の中で路線変更したわけではなくて、最初からそうしたいなと思っていたんですが、その話を担当さんに冗談まじりにすると「ハハハ」と笑われて終わるみたいな(笑)。話が進んでいって、本当にやりますからという感じでした。
若杉公徳
実際、大変でしたけどね。最後のほうはギャグ寄りに戻せたんですが、人が死んでしまうとどうしてもシリアスになっていってしまうので、結構そちらに引っ張られていってしまって。今回は最初からバンバン死なせていて、もともとそういう世界観でもあるので、振り切ってやれているかな、と。
ヤンマガWeb
『みんな!エスパーだよ! 』もTVドラマ化・映画化されましたが、『明日のエサ キミだから』も映像化されたら面白そうですよね。
若杉公徳
ぜひ映像化して欲しいです。Netflixでやってくれないかなぁ(笑)。ただ、お金が掛かりそうですよね。大変だと思います。ミケなんかは、むしろ着ぐるみでやってもらいたいですけどね。明らかに中に人が入っていて、人が走ってるだろうっていう(笑)。


若杉先生の今後の展望は?


ヤンマガWeb
そんなミケが無惨に人を食い殺すっていうのも、シュールな面白さと変な恐さがあるかもしれないですね(笑)。『明日のエサ キミだから』はまだ連載中ではありますが、最後にこれから描いてみたいものもぜひ聞かせてください!
若杉公徳
笑えるものをこれからも追求していきたいです。あくまでこの作品も、人がパニック状態になったときって実はこんなに笑えるんだっていう作品ですからね。そういう作品ってあんまりなかった気がするので、笑って読めるパニック漫画ということで楽しんでもらえると嬉しいです。
若杉公徳
今後としては、『デトロイト・メタル・シティ』みたいに、もっとギャグ寄りの漫画もまた描きたいなっていうのはありますね。今、もうひとつ『ヤングアニマル』で準備している作品があるんですが、それもギャグなんだけれど結構ホラーっちゃあホラーなんです。やっぱり人の生き死にを笑いにしていて。もっと日常系の「あっ、行けない! 忘れ物しちゃった♪」みたいなことで笑いを取りにいきたいんですが、行くところまで行っちゃってますね(笑)。


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