ヤングマガジン13号(2022年2月28発売)より幕を開けた歴史スペクタクル『ゾミア』。作中では描き切れなかった当時の彼の地の社会情勢や歴史の秘話を、「辺境余話」として紹介する不定期コラム。

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モンゴル帝国に滅ぼされた部族によるものと思われる、モンゴルを呪う言葉で幕を開ける本作『ゾミア』。「地獄から湧いて出た者(エクスタルタロ)」と恐れられ、その残虐性で世界を震撼させたモンゴル帝国だが、そこには、恐ろしいだけではない、彼らの先進的な策略があった!

モンゴル帝国は、戦わずして降伏した都市には大きな自治を許したが、歯向かう都市は一切容赦せず、徹底的に破壊していった。残虐の限りを尽くし、しかし彼らはわざと、少数の住民を逃がした。彼らを生き証人とし、「いかにモンゴル軍が凶悪であるか」を喧伝させるためである。その効果は抜群で、瀕死の避難民が語る人間離れしたモンゴル軍の恐ろしさ・苛烈さの噂は瞬く間に広がった。

〈モンゴル軍まじヤバすぎ!〉今でいう「炎上」である。その結果、敵軍は戦う前から戦意を喪失、戦わず降伏した方が良いとの結論に至ることも少なくなかった。『ゾミア』第1話でも、(陥落した中都から)「わずかに逃げ延びた女真族は僻地へ追われ、難民となった」とあるが、これすらもモンゴルの戦略だったのだ。

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また、作中に出てくる燕を使った「史上初の空襲」も同様である。ジャック・ウェザーフォード著『チンギス・ハンとモンゴル帝国の歩み』によると、モンゴル軍は包囲した城塞都市からの撤退条件として猫や鳥の譲渡を迫った。そして住民が猫・鳥を差し出すと、それらの尾に松明や燃えた旗を付けて放つ。城塞都市は住処へと逃げ戻った猫・鳥によって火焔地獄と化した。
この世にも珍しい奇策は、人々の話題になる。バズったのである。こうして恐れおののいた人々の口承によって、モンゴルの支配はより強固なものとなっていく。 炎上させ、バズらせる。「悪評」こそが彼らの戦略であり、強さの一端だった。それゆえ残虐な破壊者として描かれることが多いモンゴル帝国だが、彼らはいち早く情報の価値を理解し、数々の革新を誕生させた先進的な国家でもあった。

『ゾミア』第1話を読む