1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながら、ドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本中のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。
当企画では、同作において重要な役割を果たし、主人公・藤原拓海にさまざまな影響を与えたキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。
今回は、主人公・藤原拓海と2度も死闘を繰り広げたライバル、小柏カイを紹介。ルックスそのままの豪快かつ鮮烈な走りで拓海を苦しめ、そしてバトル後も男らしさをみせるナイスガイである。
文/安藤修也 マンガ/しげの秀一
■小柏カイはどんな人物?
いろは坂の走り屋で栃木県在住の19歳。藤原拓海と最初のバトルをした頃の職業はよくわからないが、後にプロレーサーとなっていることから、この時はすこしモラトリアムな時間を過ごしていたのかもしれない。実際、拓海にバトルを申し込みに行ったのは平日の昼間(拓海が学校に通っていた時)ということで、それなりに時間が自由に使える環境にあったようにも思える。
後述するが、彼の性格は問答無用に男らしい。そしてルックスも、彼の内面が滲み出たような男っぽさが特徴だ。角を残してトップが平たくなった角刈りのようなヘアスタイルに、ほどよく引き締まった精悍な顔つき。ジーンズ、トレーナーに革ジャンという組み合わせが、それらに拍車をかけている。実にボーン・トゥ・ビー・ワイルドな男だ。
彼の父親である小柏健も元走り屋で、拓海の父親である文太とはかつてライバルであった(最後は文太に敗北している)。8歳からカートを始めるなど、そんな父親から英才教育を受けてきたのだから、カイが「速いのは当たり前」と見る向きがあるかもしれないが、それだけではない。
カイは16歳からオートバイにも乗り始め、いろは坂最強と呼ばれるまでになった。特に高校3年間、通学のためにバイクでいろは坂を走っていたために全路面の情報が頭に叩き込まれている。これらがカイの走りのコアにあるのだ。
■ミッドシップ使いという鮮烈な印象
発言も、とにかく威勢がいい。そして物おじしない態度からは、天性のワイルドさが感じられる。若さゆえの不良性を具現化したような性格でもあるが、父親の助言を真摯に受け止めることも、父の代からのライバル(藤原親子)にチャレンジするあたりも、常に先達へのオマージュが感じられる。
同じくいろは坂を拠点とするチーム•エンペラーに挑み、ナンバー2の岩城清次を撃破した後、「いつも他人を見下してるえらそうな須藤京一に、一発ガツンとかましてやるつもりでいた」が、拓海が先に須藤を負かしたことで、標的を秋名のハチロクへと変更した。
そして拓海がアルバイトする郡馬のガソリンスタンドへ乗り込み、堂々とバトルを申し込むことになる。見事である。いや、頂点を目指すドライバーなら、これくらいの行動力があってしかるべきだろう。
拓海との最初のバトルで乗ったマシンは、NAのMR2(SW20型)。カイによればこれは父(小柏健)のクルマだということだが、2度目のバトルではMR-Sへと乗り換えている。どちらもレーシングカーと同じミッドシップのクルマをチョイスしており、実際にバトルではそのバランスの良さと転回性能を活かした、みずみずしくも天才的なドライビングテクニックを見せつけることになる。
■ドライビングの天才性と勇猛さ
いろは坂で行われた拓海とのバトルは、わかりやすく派手なものとなった。
途中、MR2は宙を飛ぶし、ハチロクもそれに続く。さらに最後は、MR2とハチロクがともに2台横並びでジャンピングスポットを越える。最終的には落ち葉を踏んでしまったMR2がハーフスピンを喫して、カイは敗北してしまうのだが、負けたら負けたで、さっぱりと敗北を認める男らしさを見せている。
喧嘩した二人がボロボロになって大の字で倒れたまま、「やるなお前」「お前もな」という言葉を交わすのは、古来よりマンガでのステレオタイプな好漢の表現だが、カイは一人でこれを演じている。バトル後の会話シーンには、彼の問答無用な男らしさが表現されているし、こんな風にいつだって真っ直ぐなところが彼の魅力でもある。もちろんそれは、彼の走りにも表出している。
まず、父親から授けられた作戦だが、後ろから抜きさって完璧な勝利を演出するため、スタートではハチロクを先行させるきっぷの良さをみせる。
さらに、拓海のスキのない走りを見て、自身「オキテ破りの地元走り」という、ガードレールの切れ目からヘアピンをショートカットする血気盛んな走りを披露し、さらにバトル終盤では2台並んで橋エリアに突入する度胸も見せつけてくれる。
左足ブレーキや扱いの難しいミッドシップを自在に操る天賦の才能はもちろん、とにかくその走りからは、雄々しさがほとばしっている。まさに快男児である。