SKY-HIのオススメ漫画Digger「エンタメ業界を舞台にしたオススメ漫画3選」


ラッパー、ソングライター、ダンサーなど幅広く活動しているSKY-HI(スカイハイ)さん。
実はかなり熱心な漫画読者なのだ。
そんなSKY-HIさんが、エンタメ業界を舞台にしたオススメ漫画を3作品をピックアップしてくれました!

マンガって、どんなに荒唐無稽な展開が描かれていたとしても、やっぱり、一定のリアリティが必要だと思うんですよ。リアルに、現実をそのまま描く必要はないんです。ただ、描かれる物語に説得力がないと、白けてしまう。とくに音楽をはじめとするエンターテインメント業界を描いたマンガは、職業柄、読む目がシビアになってしまうのですが、そのなかでも特にリアリティを感じて興奮した作を、今回は紹介したいと思います!


エンタメ業界を舞台にしたオススメ漫画 その1 『アンサングヒーロー


大手レコード会社の制作部で働く主人公・後免一朗が、とんでもない歌唱力をもつ女の子と出会い、売り込むために奮闘する物語なんですが、まず、プロデュースする側の事情がめっちゃリアル。実績のない新人にどれくらい予算が割けられるのか、社内ではどういう根回しが必要なのか。後免くんが直面する現実は、まさに僕たちが日々向き合っているもの。

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ただ、そんな裏側の現実とアーティスト本人が見ている景色が必ずしも合致するとは限らないというのも、おもしろいところで。後免が売りだそうとする柊木ジャムという少女は、とにかく歌うことにしか興味がない。どうすればよりよい作品が生み出せるのか、それを人の心に届けることができるのか。ビジネスの現実とは違う場所で戦い続ける彼女たちの存在があってこそ、音楽の仕事は成り立つんだということも伝わってきます。

僕も、ジャムとは違いますが、音楽をやるということ以外の仕事はしていませんでしたから、彼女の気持ちはよくわかる。一方で、会社を立ち上げて以降、音楽を仕事にして雇う雇われるの関係の大変さや会社人の葛藤も理解できるので、社会人として未熟で叱られてばかりの後免の気持ちもよくわかる。正直、読みながら、共感性羞恥がハンパない(笑)。
でもね、一人で何もかもを完璧に成し遂げるなんて不可能で、仕事というのは結局のところ、周囲との関係性をいかに構築していくかにかかっていると思うんです。アーティスト、マネージャー、制作部や広報のスタッフ‥‥。ドライでビジネスライクなつながり方が功を奏すこともあれば、ウェットに密な関係を築くことで乗り越えられるものもある。それは人それぞれ、チームごとにも違うと思うんだけど、そんな人間模様も含めて音楽業界のリアルがしっかり描かれているところが、僕はとても好きですね。
 

エンタメ業界を舞台にしたオススメ漫画 その2 『ワンダンス』

 
高校で出会った同級生のダンスに魅せられて、未経験ながらも一緒に踊るべく、ダンスを学ぶ少年の物語なんですが、そもそもストリートダンスって、扱うのがめちゃくちゃ難しいモチーフ。社交ダンスやバレエには、歴史や伝統、評価の軸がはっきりしているけど、ストリートダンスは、語るべきコンテクストがありすぎるうえに、どれか一つが欠けてしまうと、とたんに興ざめさせられてしまう。でも『ワンダンス』には、それがない。経験者ほど、読むとのめりこんじゃうんじゃないかと思うくらい、身体の描き方もリアル!
関節を使った複雑な動きを丁寧に描くだけでなく、熟練の上級者とぎこちない初心者の違い、へただけど才能を感じさせる人の動きなど、それぞれのキャラクターがどんなダンサーなのか一目でわかるような描きわけがされている。ダンスシーンにはちゃんと流している曲も書いてあるから、どの音を拾った動きをしているかもわかる。ダンスマンガとして、これ以上ないほど、完璧。ダンスに対する狂気じみた愛情を感じます。

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でも、それなのに、主役はあくまで高校生の彼らであり、ダンスそのものではないというところも、いいんですよね。誰かに魅せられ、憧れ、努力し、足りない自分に悔しくなって、嫉妬する。ダンスを通じて生まれた師弟関係や友情も、ほんの少しのボタンのかけ違いで、こじれてしまう。彼らの世界はダンスで構成されているわけじゃない、というのも、この作品の好きなところ。ほんのちょっと登場しただけのモブキャラにも、ちゃんと背景があって、人生があるんだということが伝わってきて、胸を打たれてしまう。次に紹介する『BLUE GIANT』もそうだけど、モブキャラを粗末に扱わない、というのは最近のおもしろい漫画の必須条件かもしれない。
 

エンタメ業界を舞台にしたオススメ漫画 その3 『BLUE GIANT』


僕にとっての音楽の原体験は、スティーヴ・ガッドという名高きジャズドラマー。でも18歳くらいのとき、「ジャズだけは深掘りするな」って言われたことがあって。「一生かかっても掘り切れず、もっと聴きたかったと思いながら死んでいった人たちをたくさん見てきたから」と。それ以来、ジャズ好きを公言することはなかったんですが、大好きなジャズ漫画には出会ってしまったんですよね。『BLUE GIANT』に。

まさに、ジャズを追い求め続ける高校生の少年・大が、サックスを携え世界に羽ばたいていく物語ですが、読んでいて惹きつけられたのは音楽マンガだからでもジャズマンガだからでもなく、何か一つのものに青春を捧げ、一生を捧げる覚悟で情熱を燃やし続ける大の姿に、めちゃくちゃ心を揺さぶられてしまったから。ジャズが好きで、大好きで、ひらすら自分のめざす音を求めて努力し続ける彼の生きざまに触れるにつれ、「俺も好きな物をただ好きって言っていいんだ」と思えるようになりました。

僕、大がバンドを組んだ雪祈というピアニストがすごく好きで。とにかく自信家で、他の演奏者に対する評価も辛辣だから、一見、いやみで高圧的な人間にも見えるんだけど、彼が子どもの頃から積み重ねてきた努力の日々と、音楽や自分自身と向き合い続けてきた真摯さを思えば、その言動は妥当なんですよね。母親が音楽教室の先生だったこともあってか、いちばんプリミティブな音楽への愛情をもっているような気がする。
そんな雪祈が、大が、自分の限界を超えて努力し続ける姿がとにかく美しくて、「彼らも頑張ってるんだから俺も」と読むたび自分を奮い立たせます。
 
 

今回おすすめした三作品とも「天才」と呼ばれるような人たちが登場するんだけれど、みんな、結果としてそう呼ばれているだけであって、凡人だった“昨日”もあるはずなんですよね。天才だから苦労しない、なんてことはまったくなくて、みんなそれぞれ、素晴らしい作品を生み出すために、等身大にもがきあがき続けている。その生きざまに触れるだけで、心動かされるものがきっとあると思います!



取材・文 / 立花もも


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