伝説のクルママンガ『頭文字D』の意思を現代に受け継ぐ新世代のクルママンガ、『MFゴースト』。2017年の連載開始時から圧倒的な読者人気を獲得している。

当連載では、同作品内で繰り広げられる『MFG』で活躍するドライバーや、主人公・片桐夏向の周囲を取り巻く人々など、魅力あふれる登場人物たちの人となりを分析し、そのキャラクターや人物像を明らかにしていく。

今回は、ラウンド2の「芦ノ湖GT」以降、夏向をサポートするようになる名エンジニアの奥山広也を取り上げる。かつて藤原拓海とバトルを繰り広げた男がみせる、神奈川のプライドをかけた技術力とは?

文/安藤修也
マンガ/しげの秀一


■かつての拓海のライバルが再登場!


初戦の小田原パイクスピークを終えて、夏向のドライビングテクニックに対して86の戦闘力に物足りなさを感じていた緒方は、相葉瞬から優秀なエンジニアを紹介してもらうことになる。それが、オートショップ『スパイラルゼロ』を経営する奥山広也だった。


この「奥山広也」という名前を聞いて、ピンときた人はかなりの『頭文字D』通に違いない。そう、プロジェクトDによる神奈川遠征第3戦の相手となった「チーム・スパイラル」のナンバーツーで「ゼロワン」と呼ばれ、S15シルビアを駆っていた男である。

バトルでは、拓海のハチロクに対して「ハナからドラテクを競うつもりなんかない」と、クルマのポテンシャルで相手を捩じ伏せようという狙いであったが、濃霧によるコンディション不良のコースで先行するハチロクにぶっちぎられ、「人生観が変わるほどの」衝撃を受けている。

『頭文字D』当時の青年時代の奥山は、目が隠れるほど前髪を伸ばし、ネックレスをつけた少しチャラい雰囲気の男だったが、よほどこのバトルの敗北が影響したのだろうか(?)、『MFゴースト』では、かなり落ち着いた雰囲気で登場。髪は短髪で、経営者らしくジャケットを羽織り、額にシワの目立つダンディな中年風の姿になっている。


■「足の魔術師」が選んだのはライトチューン


緒方から相談を受けた、86のアップデートについては、まず「エンジンのパワーアップは後回しにする」旨を緒方に告げた。 長年チューニング畑で腕を磨いてきた奥山は、「足の魔術師」とも呼ばれている。「クルマは足だけで速くなる」を信条としており、まずはサスペンション、ブレーキ、吸排気系のみに手を入れて86の仕上がりをみることにしたようである。

具体的には、タイヤを使いきったところからさらに粘るようなストロークのしなやかさを重視したサスペンションを作り上げ、ブレーキは6ポッドを用いて制動力と耐久性を向上させることで、レース終盤でのタッチの劣化を最小限に抑えようとした。



ターンパイクを試走した夏向は、この86を以前より確実にパワフルになったと感じ、メカニカルグリップの向上、ショックアブソーバーの絶妙な動き、剛性感があってレーシングカーに近いタッチのブレーキに仕上がっていると評価した。

実際、これらのチューニングはMFGの本質をついており、ラウンド2「芦ノ湖GT」の予選では暫定ながら8位を獲得するスーパーラップを披露して、関係者とファンを驚愕させている(予選の最終結果は10位)。

この「芦ノ湖スペシャル」ともいうべき奥山のサスペンションセッティングだが、この時すでに次戦以降の「真鶴スペシャル」、「ダブルレーンスペシャル」、「熱海スペシャル」も奥山の頭のなかに確固たるビジョンが出来上がっていたというから頼もしい。コースごとに異なる特徴を持つMFGでは、サスペンションに求められるものも大きいのだ。


■神奈川プライドをかけた戦い



「芦ノ湖GT」終了後には、奥山、緒方、夏向による3者で、今後の86のチューニングメニューを決めるミーティングを開催。スープラへの乗り換えを主張する緒方に対して、奥山は拓海が口にしたターボプロジェクトを支持し、「86にトコトンこだわっていくなら、それはそれでメカ屋としてはおもしろいと思ってる‥‥」と発言している。

これはかつて奥山自身が経験した、AE86のような非力なマシンでもチューニング次第でモンスターマシンに勝てるという矜持のようなものであった。実際に、フラットトルクで扱いやすい300馬力のターボチューン86を完成させ、ラウンド3「ザ・ペニンシェラ真鶴」の予選ではコースレコードを樹立。最終予選グリッドを3位とし、600馬力のモンスターマシンの間に割って入る大番狂わせを演出した。

決勝レースでは、緒方とともにセコンドブースに入り、86を見守りながら緒方をサポートしている。どうやら夏向というドライバーに惚れ込んだようで、「まちがいなく師である藤原を超えるスケールの天才ドライバー」と夏向を評している。

作中では、「群馬勢が構築して、でかく育て上げたMFGを‥‥少しでもひっかきまわすことができるなら‥‥神奈川勢の残党としてはせめてものささやかな自己主張だ‥‥」とも発言している。これこそ、高橋兄弟や藤原拓海が作り上げた神話のような「群馬プライド」に対抗する、「神奈川プライド」である。

MFGのコースはすベて神奈川がベースであり、自身の出自に誇りを感じている奥山広也が、今後も夏向にとって不可欠なピースとなっていくに違いない。


※この記事はベストカーWebの記事を再編集したものです。

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