伝説のクルママンガ『頭文字D』の意思を現代に受け継ぐ新世代のクルママンガ、『MFゴースト』。2017年の連載開始時から圧倒的な読者人気を獲得している。
当連載では、同作品内で繰り広げられる『MFG』で活躍するドライバーや、主人公・片桐夏向の周囲を取り巻く人々など、魅力あふれる登場人物たちの人となりを分析し、そのキャラクターや人物像を明らかにしていく。
8回目となる今回は、ついに登場した高橋啓介の意思を継ぐ公道出身レーサー、諸星瀬名を取り上げる。群馬県渋川を出自とする瀬名の「群馬プライド」を継承する走りとは?
文/安藤修也
マンガ/しげの秀一
■期待を高めてセンセーショナルに登場
それは『頭文字D』屈指の人気キャラクター、高橋啓介のフリからはじまった。初めて彼について作中で言及されたのは、ラウンド2「芦ノ湖GT」の決勝レース中、主人公である片桐夏向が華麗なドリフトでアウディR8をオーバーテイクしたあと、それをライブで見ていた啓介が、公道最速理論に触れ、「こっちもくり出すけどな‥‥とっておきの一撃を」と語ったシーンである。
そしてこの「芦ノ湖GT」終了後、啓介は兄の高橋涼介に電話をかけて、「次から出場させるぜ‥‥」と発言。MFGでの夏向の活躍に対して、誰かを対抗馬としてエントリーさせる意思、そしてその名前が明かされる。「瀬名のMFGデビューだ」と。さらに、その場にいたケンタ(中村賢太)との会話のなかで、「瀬名」は啓介が育成しているドライバーであること、公道最速理論に精通していることなどがわかってくる。
まず読者は、片桐夏向は伝説の「プロジェクトD」の後継者ではなかったという事実に衝撃を受ける。そもそもプロジェクトDは高橋涼介が仕掛けたタスクであり、藤原拓海の弟子(つまり夏向)ではあっても高橋兄弟の意思を直接継いでいるわけではないのだ。さらに、MFGのレベルが熟成するまでエントリーしなかったという高橋兄弟の心づもりも、「瀬名」の実力をはかるうえで気になる含みであった。
そして初登場したのは、ラウンド3開始前、突如、本人が緒方のガレージを訪れるシーンだった。MFGの小田原事務局へエントリーをしに行った帰りに、夏向に挨拶をしにきたという。連載当時のリアルワールドで登場してまだ1年も経っていないGRスープラで乗りつけたというのもまた、センセーショナルであった。
■伝説のレーサーの名は伊達じゃない?
髪型は、前髪を立てた短髪でトップのほうだけ明るく染めている。若干クセがあるようなので天然パーマかもしれない。眉毛は濃いめで、瞳が大きく、なにかを悟ったような安定感のある表情をしている。そして最も印象的な顔の特徴が、額のホクロだ。人相学的にも額の真ん中にホクロがある人は強運の持ち主だそうで、そういった部分を感じさせる顔つきでもある。
夏向に対して「オレは君よりふたつ年上」と言っているので、年齢は21歳。黒の長袖Tシャツに短パンとラフなファッションだが、「突然、失礼します」と礼儀正しい一面もみせている。またこのシーンでは、夏向が「瀬名っていい名前です」と心のなかで呟いているが、いうまでもなくこの名前の由来となったのは、伝説の天才F1レーサー故アイルトン・セナに違いない。
あとになってわかるが、瀬名の愛車であるGRスープラのボディカラーはイエロー。このカラーは、かつて師匠の高橋啓介が愛車RX-7(FD3S型)に施していたのと同じものだという。これだけ下ごしらえされたキャラクターが雑魚キャラであるはずがなく、出会って挨拶しただけの夏向も、「彼は速いドライバーです。本当に手強いライバルになる気がします」と予言めいたことを言っている。
■群馬プライドを継承することの意味
かくして実際にラウンド3「ザ・ペニンシュラ」の予選を走った結果、瀬名は暫定7位のタイムを叩き出す(最終的には8位で予選通過)。 MFGの六本木本部でもどよめきがあがるほどの快挙であった。またこの時、「ポルシェのアカデミーも、フランスへの留学も、英国の名門レーシングスクールも‥‥そんなものは全部クソだ。MFGに必要なのは公道(ストリート)センスさ‥‥」と思いを吐き出しており、自分のバックボーンは「群馬プライド」だと主張。
決勝レースでも、夏向が腕を痛めていたとはいえ、狙ったポイントでスパッと86をオーバーテイクし、ハイパワーのBMW M4に対しては、外から豪快に被せている。さらに、ランボルギーニ ウラカンとのバトルでは、半島区間の3つのセパレートエリアでテクニカルな走りを見せて勝利。さまざまな走法を見せながら初レースを5位でフィニッシュしている。
これについては、高橋啓介が「瀬名の最大の強みは、モンスターじみた吸収力だからな‥‥一度体験させて見せてやれば、すごいスピードでそれをとりこんでしまう天性のセンスがある‥‥」と語っており、今後さらに速くなることを匂わせている。
瀬名自身も、「関東最速プロジェクトを完遂し、MFGを立ち上げたリョウ・タカハシを頂点に、脈々と流れる公道最速のDNAはボス(高橋啓介)からオレへと受け継がれている」と自らの毛並みのよさを語る。
1レースしか終えていない現状だが、尊敬する啓介と同じくプロジェクトDのエースであった藤原拓海の教え子である夏向への対抗心が丁寧に描写されており、読んでいるこちらとしても、どちらかといえばクールでポーカーフェイスな夏向と比べて、痛快な走りとパッションを見せる瀬名に感情移入してしまいがち。今後の瀬名の進化とレース展開に期待が高まる。