「講談社コミックプラス」に掲載されたヤンマガ作品のレビューをご紹介!!

『白地図のライゼンデ』 作:パミラ

あらすじ
物が潜み人を蝕む暗黒の地、「未測定領域」が蔓延る世界。不思議なことに“地図を描く”ことだけが、広がる闇を祓い、人の地を開拓する唯一有効な手段だった。開拓者の若者・ザバはある日、未測定領域の洞窟で獣人の少女・リタと出会う。優れた耳で瞬時に測量し地図を作るその力と、奴隷の身に宿る強い意志に導かれ、ザバは開拓への同行を提案するのだった。魔物と化した人を救う可能性が眠る、「廃都アムステルム」への開拓を。

測量士という魅力的な役割(ロール)


ファンタジー・アドベンチャーで勇者や魔術師が活躍するのは当たり前。異世界転生ジャンルの作品では、農民や料理人も大活躍しています。そんななか「あっ、これがあったか!」と思わせたのが、本作『白地図のライゼンデ』測量士という役割です。冒険における地図は道しるべであり、最重要アイテム。そんな地図を描く測量士が主人公となって、未踏の世界を切り開いていく‥‥という話です。

舞台は「未測定領域」という闇が広がり、その闇から魔物が生まれる世界。闇を祓い、人間の土地を開拓するには、未測定領域の地図を描くしか手段がありません。この物語のもう一人の主人公である若き開拓者のザバは、ある日、有力者リースランド公の領地に出現した未測定領域で獣の少女・リタを救います。





リタは美しい地図を描く能力を持っていますが、測量士としての正しい働き方も教えられないまま、危険な未測定領域に送り込まれていたのです。なぜそんなことをさせられていたのか? その真相は明らかにされず、不穏なものをはらみつつ物語は進みます。そして奴隷としてリースランド家に縛られる彼女は、いつか自由になり、広い世界を見たいと願っています。






この羽根のような耳を持つリタが、とにかく健気でかわいい! 「モフモフ大好き」なケモナーの方には、リタの足や爪にグッとくると思います。さらにRPGゲームのような戦士(ディフェンダー)、指揮官(キーパー)、測量士(ドロワー)というパーティ構成。ゲーム好きにはたまりません!
そんな開拓者たちに対する魔物は、ネズミやコウモリといった小動物に憑依して襲ってきます。まぁ、それぐらいならばザコ。しかし、魔物は人間にも憑依(ひょうい)し、「人狼」となって襲いかかってくるのです。




人間が魔物に接触できるのは3秒間のみ。つまりは一撃必殺、人狼を倒すには心臓を剣で貫くしかありません。ただし人狼を殺せば人間の姿に戻りますが、人間を生きたまま救う方法はない。つまり戦士であるディフェンダーは、魔物を倒す英雄でありながら、罪のない人を殺してしまう「人殺し」でもあるのです。



魔物が魔物として存在するのではない、というのはかなりハードな設定です。ザバの願いは、人を生きたまま人狼から元に戻す方法があるという巨大な未測定領域「廃都アムステルム」の開拓。しかし、それは死を覚悟しなければならない旅。ザバは測量士としてリタを誘います‥‥。


旅立つキャラクターたち


先ほど、羽根のような耳を持つリタと書きましたが、この耳には秘密があります。





リタは叫び声を未測定領域で反響させ、その音を聞き取って空間を把握する。つまり、コウモリのような驚異的な聴力と空間把握能力を持っているのです。なるほど! なぜ彼女が優れた測量士であるのか、これだけでストンと腑に落ちます。さらに彼女の叫び声は、魔物を怯ませるほどの威力があるのです。
さらに、パーティの戦闘スタイルにも設定があります。たとえばリタが猛スピードで地図を描くと、それによって未測定領域が急激に狭くなり、そこに巣食う魔物が一斉に飛び出してきてしまい、逆にピンチに陥ってしまう。



そのためには地図を描くスピードも考えつつ、パーティが一丸となって徐々に領域を狭(せば)めなくてはいけない‥‥。こういう設定がゲーム好きの心をくすぐります。ゲームの面白さは、そういう細かな理屈を経て攻略するところにありますからね。
また、パーティに加わるキャラクターたちも魅力的です。




“陽キャ”のアルマは獣徒で、借金持ち。彼女が狙うのは、廃都アムステルムにあるといわれる「お宝」です。匂いで敵との距離が分かり、罠も見破る目鼻、そしてなにより物の値段をピタリと言い当てる才能を持っています。冷静沈着なザバと対照的なアルマとのコンビは、旅を楽しいものにしてくれそうな予感がします! 犬の属性なのか、スリスリと擦り寄る人なつこさもいいんですよ。
そして最後の一員は、開拓者を育てる王立学院で考古学の教授を務めるアルベール。彼が求めるのは、かつて栄華を誇ったアムステルムがなぜ一夜にして滅んだのかという‥‥



リタ(ドロワー・測量士)は、世界を見る「自由」。
ザバ(ディフェンダー・戦士)は、人を生きたまま救う「希望」。
アルマ(ディフェンダー・戦士)は、巨額の借金を返す「富」。
アルベール(キーパー・指揮者)は、一夜にして滅んだ都の「真実」。
それぞれ違うもの求め、巨大な未測定領域アムステルムへと向かうことになります。
どうです、このアガる設定! ゲームなら、ここオーケストラが鳴るはず! しかし、この旅立ちは希望と決意だけの明るいものではありません。不穏な伏線が張りめぐらされれていて、これからの旅に暗い影を落としています。特に気になるのが、奴隷であるリタの所有者リースランド公。拷問も厭(いと)わない冷徹さ。未測定領域を失くすのが自分の使命だと言いながら、怪しい存在とも繋がっているようです。



そしてなにより、気になるのがリタ本人!



このカット、実は第1話の冒頭なんです。リタが啜(すす)っているのは人の血‥‥?
『白地図のライゼンデ』のライゼンデとは、ドイツ語で「旅人」のこと。リタは闇を照らす光の存在なのか? それともパーティの不安要因なのか? 5人目の旅人になった気分で読んでみてはどうでしょうか?



※こちらの記事は講談社コミックプラス3/5更新の記事を再編集したものです。


レビュアー / 嶋津善之
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。


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