伝説のクルママンガ『頭文字D』の名勝負を選出した「頭文字D名勝負列伝」が、読者のアンコールに答えて復活! 今回は、国産車屈指のライトウェイトスポーツカーであるロードスターにハチロクが挑んだバトルで、神奈川の実力派チーム246とプロジェクトDの伯仲のバトルをお届けする。
文/安藤修也、マンガ/しげの秀一
【登場車種】
■先行:マツダ・ロードスター(NB型)
→ドライバーは大宮智史。チーム246(ツーフォーシックス)のリーダーにしてエースドライバー。今回、プロジェクトDとのバトルを前にして代表者を決めるための投票が行われると、満場一致でダウンヒル代表に選ばれた。その時の「センキュッ」という雄叫びや、ざっくり伸ばしたウルフヘア、ポロシャツから突き出た肉付きのいい腕など、ワイルド感の強いキャラクターである。「つまんねーことが多すぎる世の中だけど‥‥」など、発言にも野生味があふれている。愛車の2代目ロードスターは吊り下げ式GTウイングやエアロパーツを装着。
■後追い:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)
→ドライバーは藤原拓海。プロジェクトDとしてバトルを重ねてきたことでクルマの知識をグングン吸収。茨城のゴッドアームとのバトルではひと皮むけて成長し、ゴルファーの彼女(?)もできるなど、公私共に順風満帆の様子だ。愛車のハチロクは、足まわりを一新して2戦目となり、拓海曰く「フロントがぐいぐいはいってくれるから‥‥思いきってラインを作れる‥‥!!」万全な状態である。
【バトルまでのあらすじ】
プロジェクトD神奈川遠征の第一戦。相手は地元でも有名な実力派のチーム246。まずヒルクライムでは、4WDのハイパワー車であるランエボVIIを相手に、7秒もの差をつけてRX-7(高橋啓介)が余裕の勝利をかざった。距離が長く、またコース幅も各所で変わってくるトリッキーな難コースであったが、プラクティス(練習走行)を終えた拓海は、「かなり面白い」とうれしささえ垣間見せるのだった───。
【バトル考察】
相棒の小早川が高橋啓介に大敗を喫ししたことを受け、大宮はバトル前から奮い立つ。相手(プロジェクトD)の実力を目の当たりにして高まった闘争心をむき出しにすると、仲間たちの前で「オレのキャリアの中でも最高のパフォーマンスを今夜は引き出してやる」と豪語している。
一方、プロジェクトDの頭脳にして作戦参謀でもある高橋涼介は、バトル前の拓海に対して、「おそらく後半の勾配のきつい区間が勝負どころになるだろう。相手のスピードの変化を柔軟に吸収するんだ」とアドバイス。拓海は何も言わずにうなづく。
まず1本目は、大宮が先行を選択。ロードスターがハチロクを牽引する形でスタートする。大宮は、ハチロクの走りを後方から眺めていると相手のペースに引きずり込まれてしまうと予想。目の前に何もいない状況で自分のペースで走るほうが勝てると、直感で感じ取っていた。
ここで、そもそも大宮がロードスターを選んだ理由が語られる。まずレース活動をひと段落させたところで金欠だったこと、ガソリン消費量が多い大排気量ターボ車には乗れないが、シンプルで楽しいNA車のFRということでロードスターに行き着いたという。若い頃、このような愛車選びをリアルに体験した読者も多いのではないだろうか。
今回相対するロードスターとハチロクは、どちらも軽量なFRスポーツということで、軽快なフットワークや優れたハンドリングを特徴とする。似たコンセプトの2台のバトルということで、その結果を左右するのは、やはりドライバーの実力、そしてなによりコースへの熟知度となってくる。
そういった部分では地元のアドバンテージを持つ大宮が有利で、バトル序盤から中盤にかけては、ハチロクに付け入るスキを与えなかった。しかも見ている仲間たちからは、「大宮さんにはこっから先があるんだ。もう一段スイッチがきりかわる瞬間がどっかでくる‥‥」とさらなるレベルアップが期待されている。日頃、大宮が仲間たちから支持されている所以なのだろう。
ロングストレートからのハードブレーキングで、その瞬間は訪れた。大宮のレイトブレーキングが炸裂し、一瞬ながらハチロクがつきはなされる。これまでダウンヒルスペシャリストとしてブレーキングの巧みさに自信を積み上げてきた拓海にとって、これはショックな出来事だった。
ここから一気に100%のガチンコモードに入った大宮に対し、拓海はすんでのところでもちこたえ、これ以上引き離されまいとついていく展開になる。どちらも公道におけるクルマの性能限界を超えた走りで、今にも路面から吹っ飛びそうな速度である。このビリビリ感はしげの先生の描写からも実にリアルに伝わってくる。
そしてそれは地元ドライバーの大宮にとっても奇跡的なスピードであったが、拓海の天才性がここで発揮されることになる。これまでのバトル同様、前方車の走りをトレースし、そのラインとスピードを自分のものにしてしまうのである。
終盤、高速域でリトラクタブルヘッドライトが空力的に不利であることを感覚的に理解した拓海は、反射的にヘッドライトをたたんだ。そして、ブレーキング手前で今度はヘッドライトを点けることになるのだが‥‥その瞬間、大宮はコース前方が瞬間的に明るくなったことで、反射的にブレーキングを早めてしまった。これが痛恨となる!
コース終盤の道幅の狭いワインディングで、ハチロクがロードスターに並びかける。しかし大宮も先を譲らず、半身だけロードスターが先行したまま、2台の並走が無理な幅の狭いエリアに入った時だった。ロードスターのリアウイングが標識にヒット!
これが勝負をわけるポイントとなった。無惨なことに、そのまま限界走行を続けていたロードスターのウイングは片側のステーが外れてしまい、その瞬間、リアのトラクションを失ったロードスターはスピンを喫してしまうのだった。
ハチロクはすれすれで真横を駆け抜けていき、単独でゴール。国産ライトウェイトスポーツ同士のダウンヒルバトルは、マシンの破損という思わぬ形で決着を見ることになった。お互いが限界まで攻め切った結果起きた事象であり、これも峠バトルの醍醐味である。バトル後に大宮が見せた清々しい表情が印象に残るのだった。
※この記事はベストカーWebの記事を再編集したものです。
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