「講談社コミックプラス」に掲載されたヤンマガ作品のレビューをご紹介!!


2022年の暮れに突如、Twitterだった頃のXに彗星のように登場したヤニねこ。可愛らしい猫耳キャラクターと見せかけてタバコをふかし、ヤニカスあるあるを繰り広げる‥‥そう。破滅的で、退廃的でクズなスタイルにタイムラインが騒然としていたことを思い出します。そしてヤンマガへの電撃連載開始で、再びタイムラインを騒然とさせた問題作がついに単行本になってしまいました。

現在タバコを吸っている人やかつて吸っていた人は若干共感できる部分がありますし、そうでない人はヤニカスの生態を垣間見ることができるでしょう。とはいえヤニカス以上の生態を垣間見ることになりますが‥‥。



主人公のヤニねこは、妹から顔と体だけが取り柄と言われる美女なのですが、中身は完全なおっさん。いや、おっさんで済むのか?

むしろできれば親類や隣人にはいて欲しくないタイプの人間‥‥ではなく獣人ですが、そんな彼女の日常を中心に、彼女を取り巻く個性的なキャラクターたちのドタバタが繰り広げられていくお話です。

本作品、なんというか「終わってる」環境の描写が生々しくて、その生々しさを可愛らしいキャラクターに演じるさせることにより、笑いに昇華しているバランス感覚が秀逸です。
例えばヤニねこの部屋。畳は吸い殻で焦げ、ゴミもタバコも散らかり放題で、その日暮らしの生活にしたってもっとこう、なんとかなるだろうというような汚い部屋です。しかし特にモノがあるわけでもないので、ゴミに溢れた汚部屋というわけではない汚い部屋に仕上がっています。

生活費の管理もかなりあやうく‥‥というよりも破綻していて、生活よりもタバコを優先する有様で、この可愛らしさでなければ直視できないような破天荒な生き様が繰り広げられているのです。



一言で言えばユニーク。ユニークなんだけど絶対にお近づきになりたくない。そんな環境をこっそり観察する感覚が秀逸なのです。
さすがにこんな奴はいないだろうと言いたくなりますが、実際問題これくらいのどうしようもない人は確かに存在していて(地域差はあります)、翻って自分の記憶を辿ってみると大学を中退した同期や、若かった時に住んでいたアパートの困った隣人など、確かに存在していた困った人たちが記憶のそこから顔を出してきたような‥‥もはや忘れ去ったはずの記憶がじわりじわりと復活してくるような気がします。そういう意味では本当に「クズ」の解像度が高くリアリティのある作品と言えるでしょう。

この作品の魅力は、そのユニークなキャラクターたちの日常の中に潜む、人間の普遍的なテーマを探る深さにある気がしてきました。タバコを吸う猫耳キャラクターや、おそらくなんらかの犯罪に抵触していそうな猫耳キャラクターたちの背後には、友情、家族、恋愛といったテーマもタバコの臭いの片隅にかすかに感じとれるような‥‥気がします。



本作品は短編形式なので、サクッと読めるのも魅力です。ちょっとした息抜きに、こうなったらおしまいだぞとか感じながら読むのもいいでしょう(いいのか?)。猫耳好きもそうでない方も、一度は手に取ってみる価値ありですよ!


レビュアー/宮本夏樹
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。



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