いよいよ「プロジェクトD」の神奈川遠征も最終戦! これまで数々の名バトルが描かれてきた名作マンガ『頭文字D』としても最後のバトルとなる。相手は神奈川最強チーム「サイドワインダー」。プロジェクトDは、ヒルクライムに続いて、ダウンヒルも勝利をおさめることができるのだろうか?

(第46巻 Vol.671「先行するシンジを追え」~第48巻Vol.717「栄光のゴール(後編)」より)。

文:安藤修也 マンガ:しげの秀一

過去回は 記事連載: 頭文字D名勝負列伝 から



【登場車種】



■先行:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)
→ドライバーは乾信司。チャーミングなルックスは明らかに○学生だが、亡き父はラリーストでその才能を受け継ぐ。家庭の事情もあり小4の頃から箱根を走り始め(←ダメ絶対!)、いかにブレーキを踏まずに走り続けられるか、ゲーム感覚で峠の走りを覚えた。愛車は母親の所有するハチロク

■後追い:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)

→ドライバーは藤原拓海。プロジェクトDのダウンヒル担当にして、北関東最速のダウンヒラー。今回、自分より若い相手とは初めてのバトルとなる。最後のバトルということで、これまで倒してきたライバルたちが「全員集合!」とばかりに箱根に集結しているのも一興だ。




【バトルまでのあらすじ】

 

高橋啓介北条豪とのヒルクライムバトル中から、その動きは始まっていた。

 同バトル開始前、乾信司は「メンドくさい」という理由で、まだ決戦の場に姿を現わしていなかった。しかし、ヒルクライム中にコース脇に立ち寄った際に、ギャラリーとして来ていた佐藤真子に恋心(のようなもの)を抱く。

 さらに、バトルを見て感動で涙を流す真子に影響を受けた純情少年は、一転、「ヒーローになってみたい」、「走りたい! ボクもあんなふうに!」と心境の変化をみせ、ひと皮むけるのであった。大人になるってそういうことだ!

 2人が操るマシンはどちらもハチロクだが、拓海のハチロクは3ドア、信司のハチロクは2ドアモデル。前者は空力的に優れており、サーキットのレースで有利。後者は、ボディ剛性が高いのでラリーやジムカーナに向いていると言われている。そういう意味では、公道がステージとなるこのバトルでは、信司のハチロクのほうが向いていることになる。




【バトル考察】



 「サイドワインダー」の参謀役である久保によれば、「シンジ君には圧倒的なスピードがありますがバトルに慣れている点では相手が上です」ということで、先行させ、1本目で決着をつけさせたい狙いがあった。案の定、スタートするなりシンジ(乾信司)は、拓海を引き離していく。

 拓海は驚愕し、「コーナーでついてけない‥‥こんなこと‥今までなかった‥‥」と焦りをみせる。

 箱根に駆けつけたエンペラーの須藤はこう分析する。拓海の走りはドリフトスタイルで、先の見通しが効かない峠で自然と安全マージンをもたらすがため無駄がある。信司の走りは、地味なグリップ走行だが、とにかくスムーズで無駄がない。常識では考えられないほどコースを熟知していればこそ実現できる後者の走法は、12年間毎日このコースを走ってきた信司ならではのものなのだ。





 だが、ここで驚愕の出来事が! ヘアピンの入り口で信司がハザードをだしてラインを開けたのである。無意識に前にでる拓海。信司の意図は、拓海の走りを見たいという無邪気なもの。一方、拓海は屈辱でモチベーションも集中力もガタ落ちに。

 ただ、その報を聞いた涼介だけは「悪くない」と言い、シミュレーションでは敗色濃厚だったこのバトル、アンコントローラブルになることはむしろ好都合だと推察するのだ。さすが今孔明!

 逃げるハチロク、追うハチロク。コーナリングでは、NSXとFDのバトルよりスピードが速い。興味本位で拓海を前に行かせた信司だったが、思いのほか拓海がふがいなかったため(タイヤをいたわっていたのだが)、展望台のヘアピンで、ラインやレイアウトなど関係なしに、ボディをぶつけながら呆気なく抜いていくのだった。

 それに対し、拓海はキレた(そりゃそうだ!)「そっちがその気なら‥」キレた拓海は速くなる。そこから、信司のスピードについていく。

 そう、拓海の原点は、前方を走るクルマのコーナリングラインや新入スピードを瞬時に見極めてコピーすることにあった。

 見事に信司の走りをコピーし、コーナリングでついていくことができるようになった拓海。これまで自分と同じ速度でコーナーを走れた人を見たことがない信司は、ピタリとはりついてくる拓海に対して焦りはじめる‥‥。





 コース終盤のテクニカルセクションで、拓海はヘッドライトを消して、空気抵抗を軽減し、トップスピードをかせぐブラインドアタックを敢行。信司のラインを奪い、インからぶち抜いた。

 瞬間、信司の目には、ハチロクの後ろ姿から生えた美しい羽根が見えていた。だが、初めて抜かれたことで逆に信司の心にも火がつく。「だれよりもたくさんこの道路を走っているから、負けたくない」!

 拓海のハチロクは、フロントタイヤのグリップ力低下から、アンダーステアの兆候がみえてきている。だが信司のハチロクは、コーナーの入り口から出口までスピードを変化させずに走るため、タイヤの消耗を少なくするというメリットが得られている。

 後方から何度かバンパーをブツけたのち、またもド派手にボディサイドをぶつけながらインをついて拓海の前にでる信司のハチロク(←人としてどうなのよ)。

「2本目があってもこのタイヤじゃ勝ち目はない」と勝負にでることを決心した拓海は、この日二度目のブラインドアタックにでる。そして、涼介から授けられた1万回転以上まで引っ張るという禁断の手を使うことに。

 狭いコースでサイドバイサイド。自身の走行ラインが制限されたことで、信司の進入スピードは落ち、アンダーステアの拓海と互角になった。

 横並びになりながら複数のコーナーを抜ける二台。互いにボディをぶつけながら、ついに最終コーナー手前に到達。しかし最後の立ち上がり、信司のハチロクが交代し始めた瞬間だった。「グシャ」という音とともに、拓海のハチロクがエンジンブローした!

 拓海はそのままタイヤロックしてスピン。避けようとした信司のハチロクもスピン。ゴール地点で待っていたギャラリーの前に飛び出してきたのは、2台のハチロクの後ろ姿だった。

 ここで拓海は180度回転したまま、クラッチを切りバックで急勾配を駆け下りるという神業をみせる。360度回転した信司は、すぐにアクセルを踏み込んだものの、拓海がバックのまま、先にゴールラインをつっきる。

 作品全体にウェイトを持たせるようなインパクトのある、見事な、そして(ハチロクにとって)せつないラストゴールであった。

 最後まで胃のなかを掻き回されるようなハイスピードバトルが終わった。すべてが面白いまま、読み応えがあるまま終わってしまった。

 2台のハチロクが織りなす美しいグラフィックがまぶたに焼き付いて頭から離れなくなる、エンターテインメント性に富んだ見事なバトルであった。



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