伝説のクルママンガ『頭文字D』の意思を現代に受け継ぐ新世代のクルママンガ、『MFゴースト』。2017年の連載開始時から圧倒的な読者人気を獲得している。
当連載では、作品内で繰り広げられるガソリン車のレース『MFG』で活躍するドライバーや、主人公・片桐夏向の周囲を取り巻く人々など、魅力あふれる登場人物たちの人となりを分析し、そのキャラクターや人物像を明らかにしていく。
今回は、MFGラウンド2「芦ノ湖GT」で解説を務めた池田竜次を紹介する(なお、姿は現さない)。かつてそのキャラクターの濃さで『頭文字D』の物語終盤を盛り上げた池田は、その後、僧侶の道をまっとうしたのか? 指導者として抜群の資質を持つ彼の現在についてレポートしよう。
文/安藤修也
マンガ/しげの秀一
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■3足のわらじを履く人格者
MFGラウンド1「小田原パイクスピーク」の決勝レースでは、ゲスト解説者として『頭文字D』のキャラクター、小柏カイが登場したが、同じくラウンド2「芦ノ湖GT」決勝でのゲスト解説者も、『頭文字D』のキャラクターであった池田竜次が登場する。
池田といえば、プロジェクトDの神奈川遠征第三ラウンドの「チーム・スパイラル」のリーダーだった人物で、愛車の日産 フェアレディZ( Z33型)を駆り、高橋啓介のマツダ RX-7と名勝負を繰り広げた。ドラビングテクニックが優れていたことはもちろん、時に説法のような走行論を語るのユニークなキャラであった。
小柏カイは元レーサー、そして現在はチーム監督という立場でのゲスト登場だったが、池田はどうか。実況担当の田中洋二の紹介では、地元小田原市の市議会議員でありながら、ゼロ・アカデミー主宰としてモータースポーツを通じて青少年の健全な育成を推進する活動に従事、さらに実家の寺の住職まで務めているという。
かつて現役の走り屋だった頃は、箱根で自警団のようなこともしていた池田(その結果、高橋涼介のRX-7と死神のGT-R(R32)とのバトルに足を突っ込むことになる)。彼ほどの人格者ともなれば、市議会議員になったというのは必然の理かもしれない。しかし団体の主宰や住職まで同時に務め上げるあたり、やはり並大抵の精神力ではない。
■今も変わらないゼロ理論とは?
このラウンド2「芦ノ湖GT」の決勝は、あいにくの雨。ウェットコンディションでのドライバーの心構えについて聞かれた池田は、「ひとことで言えば忍耐力でしょう‥‥」と返す。タイヤと路面の接地状況が目まぐるしく変わり、水しぶきで視界も悪い、ネガティブ要因の重なるなかでは、いかに冷静な判断力を維持できるかが重要。つまり、カギを握るのはメンタルの強さだと主張する。
このあたり、池田が若い頃から主張してきた「ゼロ理論」に通じるところがある。池田曰く「感情は冷静な判断と正確な操作のじゃまをする‥‥。すべての感情を封印し、無(ゼロ)になることこそ、理想的なドライビングスタイル」ということだ。また、彼がかつて高橋啓介とバトルした際も雨であったが、この芦ノ湖GTの解説をしながら、レース終盤に、池田が当時のバトルを重ね合わせて懐かしむ様子が語られることになる。
レース序盤、「死神(デスエリア)」と呼ばれる火山灰が堆積したエリアに差し掛かると、メンタルの整っていない数名のドライバーは焦り、あるいは昂り、スピンをしないまでもミスをしていく。そのなかで池田が注目したのは、主人公・片桐夏向である。「このクルマ(86)だけがデスエリアにあって、マシンの挙動を全く乱さないのですよ。ピシャリと安定していて、非常に不気味な存在です」と驚きとともにそのドライビングテクニックを高く評価している。
さらに夏向の走りを、「これはドライビングの技術だけでなく、クルマのウェットセッティングがうまくきまっているということでもあります‥‥。優秀なメカニックがついたのかもしれません‥‥」と評しているが、かつての(チーム・スパイラルでの)相棒である奥山広也が夏向の手助けをしていることを知っていて、あえて知らないふりをしているようだ。憎めない男である。
■愛弟子・相葉瞬との関係性とMFG上層部への思い
決勝レース中、GT-Rを駆る相葉瞬が、「池田さんが見ている前で、みっともないレースはできない‥‥。ゼロ・アカデミー出身ドライバーとしては‥‥」と突然つぶやき、相葉が池田の教え子であったことが判明する。たしかに相葉は地元小田原出身とアナウンスされているので、若い頃から地元に根ざした活動をしてきた池田に師事していても決しておかしくはないだろう。
しかし相葉瞬といえば、チャレンジ精神に溢れた好人物である一方、しばしばおっちょこちょいな部分も見られるドライバー。本当に池田の教えを受けてきたのかと疑問に思っていると、レース中に池田自身がこう語ってくれる。「ドライビングのセンスには光るものがありました‥‥問題は精神面(メンタル)なんです」「相葉君はメンタルのコントロールがヘタなんですよ」さらに「ゼロ理論を、たぶんほとんど理解できていなかったのだと思いますね(苦笑)」とも。
つまり、弟子とはいえ池田とは正反対の性格で、ドライビングにもそれは表れているようである。それでも池田は弟子が可愛いのだろう。「あれでなかなか人望が厚いのです」「後輩へのめんどうみもいいですしね」「心優しい熱血漢という形容がぴったりのナイスガイなんです」と、ドライバーとしてはあまり救われないフォローも入れている(笑)。
レース終盤、濃霧発生という悪条件下でもレース続行を指示したMFG上層部に対しては、「そこにはリョウ・タカハシ君が発するメッセージがあります」、「わたしは全面的に彼等の信念を支持します」と宣言。別の場面でも、リッチマンズレギュレーションと呼ばれる状態についても、「(グリップウェイトレシオの)レギュレーションの理解がまちがった方向に向かっているんですよ」と嘆くなど、『頭文字D』の頃と同様、高橋涼介と気心を通じている様子が描かれている。
※この記事はベストカーWebの記事を再編集したものです。
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