「講談社コミックプラス」に掲載されたヤンマガ作品のレビューをご紹介!!
スチームパンク侍、空来船を叩き落としに仕り候
なんてカッコいいんだろう!
今年の見開き絵 of the yearは、このコマに贈りたい!
蒸気を吹き出して宙を舞い、巨大空来船に斬りかかるサムライ。
これこそ私の見たかったスチームパンクだ。
スチームパンクとは、蒸気機関が主たる動力源になっている世界を舞台にしたSFジャンルで、ウィリアム・ギブスンとブルース・スターリングの小説『ディファレンス・エンジン(1990年)』がきっかけとなって広く知られるようになった。特に日本では、大友克洋監督の映画『スチームボーイ』、ゲーム『ファイナル・ファンタジーVI』、Eテレの音楽番組『ムジカ・ピッコリーノ』といった「これぞスチームパンク」な作品も多く、広く浸透している。また、『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』『空挺ドラゴンズ』などスチームパンク風味の色濃い漫画は数しれない。本作『空来船打払令』もその系譜に入るが、このジャンルの新たな地平を切り拓く予感に満ちていて、月刊ヤングマガジンでの連載開始以来ワクワクしながらチェックしている。
物語は嘉永6年(1853年・史実的にはペリーの黒船が来航した年)、一隻の謎の空来船が出現して江戸の街を攻撃し始め、50万人の犠牲者を出すところから始まる。その後、空来船は沈黙し上空で動かないまま3年が経過する。そんなある日、侍の鳥居円次郎は発明を生業とする摩訶職人の天野花火と知り合う。彼女は円次郎に蒸気甲冑と蒸気刀を装備させ、空来船を撃墜させようとする。
ゴツゴツとした無骨な蒸気甲冑と蒸気刀を身につけた円次郎の姿は、まるで塚本晋也監督の映画『鉄男』のようだ。この重工業感あふれるガジェットが、もうもうと蒸気を噴き出しながら宙に浮く瞬間の高揚感! 最高じゃないですか! そして、びっちり描き込まれた設計図もたまらない。たっぷり舐め回すように見させていただきました!
ゴツゴツとした無骨な蒸気甲冑と蒸気刀を身につけた円次郎の姿は、まるで塚本晋也監督の映画『鉄男』のようだ。この重工業感あふれるガジェットが、もうもうと蒸気を噴き出しながら宙に浮く瞬間の高揚感! 最高じゃないですか! そして、びっちり描き込まれた設計図もたまらない。たっぷり舐め回すように見させていただきました!
空来船を操っているのは何者か?
円次郎は初めての飛行で空来船を撃墜。町では空を飛ぶ謎のからくり侍の話で持ちきりになる。しかし、空来船は1隻ではなかった。花火の師匠でエレキテル使いの平賀瑠璃の指示のもと、円次郎たちは空来船と戦う「機空隊」を組織することになる。
こんな「蒸気で空を飛ぶ侍vs.謎の空来船」という荒唐無稽な物語には、かなりクセの強いキャラクターが登場する(そして、まだまだ増えそう)。まずは美人すぎる変人、平賀瑠璃先生。
花火を連れてイギリスで学んだというが、その正体はまだ不明。何を考えているかよくわからない、つかみどころのないキャラクターだ。
そして円次郎たちが機空隊にスカウトしようとする、スゴ腕の侍・坂本舟馬。
規格外の長刀を操る(が、長すぎて一人で刀を鞘に収めることができない)海の男。魚貝への愛が深すぎて貝を踏みつけると激怒するという謎設定のキャラで、円次郎が落とした空来船のせいで海が汚れて魚が消えたことに怒り、からくり侍を殺そうとしている。
規格外の長刀を操る(が、長すぎて一人で刀を鞘に収めることができない)海の男。魚貝への愛が深すぎて貝を踏みつけると激怒するという謎設定のキャラで、円次郎が落とした空来船のせいで海が汚れて魚が消えたことに怒り、からくり侍を殺そうとしている。
最後はオランダの武器商人、テオ・ベルクとモニク・マイヤーだ。
このあやしい日本語を話すテオ・ベルクと通訳のモニク・マイヤーは、空来船がこの国に来た理由が「からくり侍」が身につける蒸気甲冑と蒸気刀の設計図にあるのではないかと推察する。蒸気甲冑と蒸気刀に使われている技術は、100年進んだ技術であり、そんな武器が大量に生産されたら世界の脅威となる。つまり、蒸気甲冑と蒸気刀は江戸時代における(時代的に存在しては不都合な加工品)オーパーツで、空来船はこれを追ってやってきた‥‥と。
「蒸気で空を飛ぶ侍vs.謎の空来船」という痛快アクションSF時代劇と思いきや、ここから話は複雑になる。圧倒的な戦闘力を誇る空来船の主は、この技術に脅威を抱く宇宙からの来訪者なのか? もしくは映画『ターミネーター』のように将来の芽を摘むためにやってきた未来人かもしれない。いや、天野花火と平賀瑠璃も未来からやってきたのかもしれない‥‥と、面白くなってきたところで第1巻は終わる。
このあやしい日本語を話すテオ・ベルクと通訳のモニク・マイヤーは、空来船がこの国に来た理由が「からくり侍」が身につける蒸気甲冑と蒸気刀の設計図にあるのではないかと推察する。蒸気甲冑と蒸気刀に使われている技術は、100年進んだ技術であり、そんな武器が大量に生産されたら世界の脅威となる。つまり、蒸気甲冑と蒸気刀は江戸時代における(時代的に存在しては不都合な加工品)オーパーツで、空来船はこれを追ってやってきた‥‥と。
「蒸気で空を飛ぶ侍vs.謎の空来船」という痛快アクションSF時代劇と思いきや、ここから話は複雑になる。圧倒的な戦闘力を誇る空来船の主は、この技術に脅威を抱く宇宙からの来訪者なのか? もしくは映画『ターミネーター』のように将来の芽を摘むためにやってきた未来人かもしれない。いや、天野花火と平賀瑠璃も未来からやってきたのかもしれない‥‥と、面白くなってきたところで第1巻は終わる。
スチームパンク作品の世界観は、イギリスの産業革命期を舞台にし、ヴィクトリア朝(1837~1901年)の文化風俗をイメージしていることが多い。しかし本作は、まさにヴィクトリア朝と同時期の江戸後期に舞台を置き換え、「スチームパンク世界がパラレルワールド的に江戸に生まれしならば」という世界を描き出そうとしている。ホラ話にホラ話を重ねるような途方もない試みだが、それをエンターテインメントに昇華させているのが作者・加藤文孝の圧倒的画力だ。コミックスのカバーを外して広げて見てほしい。カバーをめくって現れる表紙絵もあわせて見てほしい。浮世絵に出てきそうな日本の風景に収まる空来船の禍々しさは、機械というよりも、なにか命を持った生物のようだ。このテンションで描き続ける作者のことを考えると、めまいがしそうだが、話はまだ序盤。
もっと、もっと絵を見せてくれ!
もっと、もっと蒸気をくれ!
※こちらの記事は講談社コミックプラス11/19更新の記事を再編集したものです。
もっと、もっと絵を見せてくれ!
もっと、もっと蒸気をくれ!
※こちらの記事は講談社コミックプラス11/19更新の記事を再編集したものです。
レビュアー/嶋津善之
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。