『彼岸島』シリーズ1000万部突破を記念して、現在『彼岸島 48日後…』を連載中の松本光司と、ヤンマガWebとコミックDAYSにて『彼岸島』公式スピンオフ『彼、岸島』を連載する佐世保太郎による全4回の対談企画が実現!

第2回目は佐世保太郎が『彼、岸島』を描くにあたっての悩みを松本光司に相談。『彼岸島』の生みの親からのアドバイスとは‥‥?

ボツから始まったスピンオフ企画 

佐世保太郎
スピンオフを描かせて欲しいと言われたとき、ぶっちゃけどう思いましたか?
松本光司
うれしいですよ。基本的に自分の作品に関わってもらうものは全てありがたいです。メディア化もコラボも、ぜひやってほしい。だからスピンオフの話を聞いたときも、ぜひお願いしますと伝えました。ただ、雅を使う話はどうだろう、と編集と話しました。こっちの作品内で雅がシリアスに登場したときに、変な笑いが入っては困るかなと。
佐世保太郎
そうですよね。最初は雅のスピンオフを考えていたんです。「雅様の華麗なる日常」みたいな。でもそれがダメだとなって、一からアイデア出しをすることになったんです。
松本光司
申し訳ないです。編集と話し合って、「学ランを着た雅が学校でいじめられるみたいなシーンで笑いになってたら、うちの漫画の雅登場時につい笑っちゃわないだろうか?」ってことになりまして。
でも、そこからどうやって『彼、岸島』に至ったんですか?
佐世保太郎
友人と『彼岸島』の話をしていたときに、「吸血鬼視点の話が面白いのでは?」と盛り上がって。よし、これでいこうと決めたんです。
タイトルはシャワーを浴びてたら偶然思いつきました。でも、H野さんからは「彼、岸島」だと読み方がわかりにくいから、後ろに「his name is kishizima」ってつけた方がいいんじゃないですかって提案されて。でも絶対つけない方がいいって主張して、そのまま採用になりました。

松本先生からのアドバイスは”明の前髪”のみだった 

松本光司
1話目のネームを見させていただいたとき、面白いなと思いました。だからこのまま進めてくださいとお願いしました。
佐世保太郎
そのとき松本先生が、「明の前髪はこう描いたほうがいいよ」と紙に描いてくれたんでしたのよね。
最初はすごくシンプルなアドバイスだなと思ったんですが、いざ前髪を描いてみると難しくて。明を原作に似せる上で、めちゃくちゃ参考になりました。
松本光司
そうか、それはよかったです。ネームを見たら明があまり似てなかったので(笑)。「ここは似てた方が面白いのでは?」って。編集も絵の話だと助言できないだろうしね。
佐世保太郎
『彼、岸島』は本編のストーリーに沿ってツッコミを入れていく、という形なので、まずは絵を本家に近づけることを意識しました。キャラクターはもちろん、背景の感じも。
コマ割りも寄せようとしたことがあります。松本先生のコマ割りは独特だなって思っていて。普通は三段に割ってそれから縦に割るのが多いですが、『彼岸島』はまず二段に割っていますよね。
松本光司
多分古いやり方なだけだと思うんだけど、三段だとコマ数が足らなくて。
佐世保太郎
一回二段でやってみたんですけど、ギャグ漫画の文法に当てはめるのが難しくて。ページをめくったときにドーン!というギャグ要素が薄まっちゃうなって。
松本光司
コマ割りは本人のリズムが一番いいと思う。だから気にせず自由に描いてくれて大丈夫ですよ。
佐世保太郎
ありがとうございます。
松本光司
教会のシーンから始まるのは意外でしたね。あそこを選んでくれたのはどうしてですか?
こちらが本家本元の『彼岸島』の教会のシーン。真っ暗な教会の中で灯りをともすと、周りの死体が吸血鬼となって明を襲ってくる!!
『彼岸島』第18巻 第百六十三話「教会」より
『彼、岸島』では、すでに教会の中に入っていた岸島の視点から描かれる!  いろいろと細工をする篤が健気に見えてくる!
『彼、岸島』第1巻 第1話「惨劇」より
佐世保太郎
一番最初に引っ掛かるところがそこだったんです。「どうしてこの状況下で結婚式をやってるのかな?」って。
明vs篤という重要なシーンでもあったので、連載第一回目の景気づけという意味でもこのエピソードから描かせていただきました。
読者からは「兄弟のめちゃくちゃ重要なシーンを茶化すなんて」って声もあったんですが‥‥。
松本光司
なるほど(笑)。面白いんだけどね。
明、絶体絶命のピンチに駆けつけたのは師匠! 圧倒的な力で吸血鬼たちをねじふせる!!
『彼岸島』第18巻 第百六十四話「結婚式」より
岸島の視点だとこの通り。吸血鬼となってしまっては花嫁も参列者も関係ない! 次々と吸血鬼を粉砕していく師匠の姿に、岸島は思わずドン引き!!
『彼、岸島』第1巻 第1話「惨劇」より
佐世保太郎
第1話が結婚式から始まったので、そこから本編に沿って明の動きを追っていくことにしました。流れは決まっているので、どこを切り取るか? ツッコミどころはどこか? と考えながら話を作っています。
ただ、やっぱりこれだけの人気作のスピンオフとなると、いまだにこれで大丈夫なのか不安になります。
ネームは毎回『彼岸島』担当編集のTさんに見てもらっているので、その反応を彼岸島ファンの反応として捉えるようにしています。
Tさんは「本編と事実関係が違わないか、認識に齟齬がないかだけ見るようにしている」とおっしゃってくれてるんですけど、やっぱり毎回ドキドキします。だから面白かったって言われたときはすごい嬉しいですね。
松本光司
僕も最新話まで読ませてもらったけど、面白かったです。僕が好きなのは、岸島といつも一緒にいる佐々岡 。二人の掛け合いが面白いです。
佐世保太郎
H野さんが岸島の相棒役がいた方がいいってアドバイスをくれて、本編に登場するどのキャラを相棒にするか悩んだんです。重要なキャラだとダメだから、モブキャラに勝手に「佐々岡」って名前をつけたんですけど、もし今後重要なキャラになってしまったらどうしようかとヒヤヒヤしてました。
松本光司
ははは。彼は大丈夫ですよ(笑)。
佐世保太郎
最初は作品にツッコミを入れる形でしたが、今は吸血鬼の世界をきちんと描くようにしています。一口に吸血鬼と言っても、気が弱い奴もいれば陰キャの奴もいる。吸血鬼の生活を想像した上で岸島にツッコミを入れさせるようにしてから、彼岸島ファンの方から「最近面白くなってきた」という感想をもらえるようになってきました。ファンアートを描いてくれる人も出てきて、ちょっとずつ彼岸島ファンにも認められてきたなって気がしています。
ちなみに、松本先生から見て、もっとこうしたら面白くなるというアドバイスはありますか?
松本光司
十分面白いから、僕が余計なことを言って作品がぶれたらもったいない。このまま自分が面白いと思うのを作って勝負してほしいなと思います。
佐世保太郎
ありがとうございます!!

松本光司と佐世保太郎、その意外な共通点 

佐世保太郎
せっかくの機会なので一つ相談したいことがあって。今『彼、岸島』は11話までアップしてるんですけど、全部締め切りを伸ばしてもらってるんです。遅れた分、その次のネームは前倒しで提出するなど調整はしているんですけど、毎回申し訳なくて‥‥。
松本先生は3,4日で原稿を仕上げちゃうと聞いたんですけど、信じられません。僕、原稿が遅いのがコンプレックスで、どうしたらスピードが上がるのか聞きたいです。
松本光司
スピードは積み重ねじゃないですかね。何年かやってきたら早くなってると思いますよ。
佐世保太郎
原稿が遅いのは絵が下手っていうのもあるんですよね。松本先生の画力に追いつける日が来るのか‥。
松本光司
絵には僕もコンプレックスがありますよ。多分みんなあり続けるんじゃないですかね。
佐世保太郎
そうなんですか?意外です。
松本光司
毎回「次こそはもっと上手く」という気持ちでいますよ。
スピードに関しては、うちは書き文字をいっぱい使うのですが、編集の発案で少し楽になりましたね。
佐世保太郎
「ドキドキ」とか「ハァハァ」とかですね。画面いっぱい文字が書かれてるのは、『彼岸島』の特徴の一つですよね。
松本光司
別に特徴づけるつもりで書いた訳じゃないんですが(笑)。
僕は何かで猛烈に緊張すると、頭に血がのぼるせいか顔が熱くなり、視界もぼやけてきて、もう心臓の音しか聞こえなくなるんですよ。
それをなんとか漫画のコマ内で再現できないかと試行錯誤した結果が、あの「ドキドキ」で画面を埋めることなんです。
松本光司
で、昔はその書き文字を直接原稿に入れてたんです。うちの書き文字は基本黒なので、周りをホワイトで抜くのですが、量が量だけにすごく面倒でした。
トーンにひっかかってキャラクターの顔にホワイトが飛び散って、もうアシスタントが最もイライラする最終作業だったんじゃないでしょうか(笑)。
それを見た当時の担当編集が「原稿の上にトレーシングペーパーを貼り、そこに書き文字を書いたら写植扱いになるので、白抜きは印刷所に頼めます」と言ってくれて。すごく楽になりました。
佐世保太郎
今でも書き文字は全部手書きですか?コピーしたものを使ってますか?
松本光司
手書きですね。使い回すことはしないようにしています。コピーを使うと、どうしてもそのコマで浮いてしまうから。
佐世保太郎
すごい‥。あの大量な文字を全部書いているんですね…。僕は今iPadで描いているんですけど、デジタルだと便利な機能がいっぱいあるわけじゃないですか。コピー機能を使いたくなるじゃないですか。‥‥使っちゃうんですよね。第10話の岸島と佐々岡がボケとツッコミを繰り返すシーンはコピーしたものを使ってます。
松本光司
そりゃ使いたくなりますよね(笑)。『彼、岸島』はiPadで描いてるんですね。
佐世保太郎
3話までアナログだったんですけど、ずっと仕上げがきついなと思っていて。『彼岸島』は背景が真っ白なコマがないじゃないですか。何かしら背景が描かれていたり、トーンが貼ってあったり、それこそ書き文字で埋め尽くされていたり。作画を原作に寄せなきゃいけないから、大変で。
H野さんにもいつも「もっと描き込んでください」と言われて。でもデジタルにしてからはちょっと楽になりました。
松本光司
僕もカラーはデジタルで描いていますから、感じはわかりますよ。でもしばらくは本編はこのままアナログで描き続けると思います。アシスタントたちも困惑するだろうし。

第2回はここまで!!
3月23日(月)に更新される第3回では、松本光司、佐世保太郎、両作者のマンガ原体験に迫ります! 二人のマンガ観を培った名作が明らかになります。お楽しみに〜〜!