『彼岸島』シリーズ1000万部突破を記念して、現在『彼岸島 48日後…』を連載中の松本光司と、ヤンマガWebとコミックDAYSにて『彼岸島』公式スピンオフ『彼、岸島』を連載する佐世保太郎による全4回の対談企画が実現!

第3回は松本光司、佐世保太郎両名の"漫画観"にフォーカス! 二人の人柄がわかる! ‥‥かもしれない今回をお楽しみください!


手塚治虫、安達哲…。漫画家・松本光司誕生を後押しした存在

松本光司
僕が漫画家を目指したのは、手塚治虫先生の影響が大きかったです。
子供の頃からとにかく漫画が大好きで、片っ端から読み漁ってました。
ただ、家では漫画を買ってもらえなかったので、友達の家の漫画を片っ端から読み漁り、さらに友達の姉妹が持っていた少女漫画まで全部読破していました。
その頃から漠然と漫画家になりたいとは思っていたけど、納得できる絵が描けなくて。一時は小説を書いてみたりしました。小説をなめんなって感じですけど(笑)。
佐世保太郎
小説を書いていらっしゃったんですね。
松本光司
でも漫画がやっぱり好きで、ヘタクソながらも漫画に戻りました。
将来に関しては、うちが学歴重視の教育だったので、両親が寝てからこっそり漫画を描いていましたが、結局モヤモヤとした不安を抱えたまま毎日塾に行ってました。
松本光司
中学3年生のときに塾の行き帰りのバスでこっそり買った手塚先生の『ガラスの地球を救え』という随筆集のような本を読んでいて、「こんな大人がいるのか、こんな人になりたい」と思ったのが本気で漫画家を意識したきっかけです。
もともと『火の鳥』など何作かは読んでいて、大好きな作家さんの一人でしたが、青年向けの『ばるぼら』とか『ボンバ!』とか『鳥人大系』などに出会って、完全に手塚先生には熱狂していました(笑)。
佐世保太郎
手塚先生に憧れながらも、ヤンマガに応募したのはどうしてですか?
松本光司
当時手塚先生は亡くなっていたので、現役の作家さんの中では安達哲さんに最も憧れていました。その安達さんがヤンマガで連載していたので、僕にとってはヤンマガは特別な雑誌でした。

kirakira.jpg 256.36 KB
1989年から1990年まで週刊少年マガジンで連載された高校生たちの青春群像劇『キラキラ!』(著:安達哲)
この後、安達哲はヤングマガジンに執筆の場を移し
『さくらの唄』『お天気お姉さん』を世に出した。
※『さくらの唄』と『お天気お姉さん』はヤンマガWebで読めるのでぜひ!
佐世保太郎
40代の先生方や編集者さんは、安達先生が好きだって方、たくさんいらっしゃいますよね。
松本光司
どの作品も素晴らしかったです。僕がとにかく惚れ込んだのは、週刊少年マガジン連載ですが、『キラキラ!』です。僕は単行本派なので、好きな作品こそ雑誌掲載時は我慢して単行本で一気に読むようにしていました。けど安達さんだけは特別で、ルールを破って毎週雑誌で読んでいました。キャラクターが強烈で、奥平君とか岡島君とか、今でも思い出すとニヤニヤしてしまうほど大好きです。
kanojohawarau.jpg 696.98 KB
第39回ちばてつやヤング部門大賞作品『彼女は笑う』。『彼岸島』シリーズに通ずるサスペンス要素と、キャラクターの細やかな描写が評価された、松本光司のデビュー作。
※『彼岸島 兄貴編』に収録されており、ヤンマガWebで読めます!
松本光司
その頃に熱狂していた現役作家さんの作品では、六田登さんの『F』『ICHIGO』や、石坂啓さんの『アレルギー戦士』『私はカラス』などですかね。今でもみんな出会いに感謝するほど大切な作品です。
佐世保太郎
僕はカレー沢薫先生の『クレムリン』や佐々木倫子先生の『動物のお医者さん』が好きでした。『動物のお医者さん』は女性のドライな笑いがすごく面白くて、そういうのも自分の作品に取り入れられたらなと思ってます。

kuremurin.jpg 667.04 KB
2009年から2013年にかけてモーニングで連載されたショートギャグ漫画『クレムリン』(著:カレー沢薫)。
独特のワードセンスで、人気を誇るカレー沢薫氏の連載デビュー作品である。
佐世保太郎
あとは…講談社さんで描かせてもらっているので言いにくいんですが…ジャンプっ子だったので、『ピューと吹く!ジャガー』が好きでしたね。
一番影響を受けたのは、漫☆画太郎先生です。ペンネームを「佐世保 太郎」ではなく「佐世 保太郎」としているのも、漫☆画太郎先生を意識したからです。
松本光司
画太郎先生いいですよね。僕も大好きです。
佐世保太郎
100%「佐世保 太郎」だと思われますけどね…。

佐世氏が漫画家を目指したきっかけは、就活から逃げるため

佐世保太郎
僕は蟲の王のような、一人で絵を描くのが好きな暗い少年だったんです。漫画も描きたかったけど、絵も描いてストーリーも考えて…って大変じゃないですか。めんどくさいから無理だなと思っていたんですよね。
佐世保太郎
でも、大学3年生で就活の時期を迎えたとき就活がめんどくさいなって思って、漫画を投稿してみたんです。あとは当時からロン毛だったので、髪の毛を切りたくなかったってのもあります(笑)。
松本光司
面白い(笑)。
佐世保太郎
就活をする代わりに漫画を投稿していたので、大学卒業までに結果を出すというのは決めていました。初めて投稿した漫画が最終候補まで残って、名前が載ったんですね。それでもしかしたらデビューできるかもしれないって調子に乗って。どんどん漫画を描くことにのめり込んでいきました。
佐世保太郎
月1本投稿し続けて、10本目でようやく引っ掛かってデビューできました。だから「いっぱい描けばいつか評価される」というのは原体験としてあるので、今でも原動力となっています。

まず自分を面白がらせなければ、読者を面白がらせることはできない

佐世保太郎
松本先生はスランプってありますか? 僕はまだペーペーなので、スランプがあるのもおこがましいという感覚なんですが、それでも悩むことはあって。そのときは『彼岸島』を読み返しまくるようにしてるんですけど。
松本光司
スランプは未だにあります。行き詰まったらとにかく動きますね、散歩とか。あとは飯とか家族とか全く別のことを考えるようにします。それでふとネームに戻って…という試行錯誤ですかね。
あと最近は「実はスランプだなと感じるときは、今の漫画の流れが自分にとって面白くないのでは?」と考えるようにしています。
佐世保太郎
面白くない?
松本光司
はい。連載漫画はずっと描いていると、描かなきゃいけないことがいっぱい出て来るじゃないですか。例えば前回の伏線の回収とか。その描かなきゃいけないことにがんじがらめになって、身動きが取れないようなときに「行き詰まる」と感じる気がします。
松本光司
だから僕はとにかく煮詰まったら、なんとか自分を面白がらせる何かを考えなきゃと思ってます。「俺、何が好きだったっけ? 何が描きたかったっけ?」みたいな。いろいろ面白がりながら、結果ゆっくりとでもその伏線を回収できたらいいのではと。
佐世保太郎
なるほど。そういう視点を持つとよさそうですね。
では、松本先生にはロングヒットの秘訣などありますか?
松本光司
僕の場合どうやったらもっと売れるかみたいなことを考えるとどんどん煮詰まって描けなくなってしまいます。
だから自分が面白いと感じることを、なるべくわかりやすくしっかり伝えれば読んでくれると信じて描くようにしています。
長期連載の秘訣があるとしたら、「自分で自分の作ってる世界に飽きないこと」ではないでしょうかね。自分が楽しくやっていたら、絶対読者も楽しんでくれる。そういった意味でも、自分を面白がらせることは重要だと思います。

新連載を描くよりも、彼岸島の舞台でもっと遊びたい

佐世保太郎
もう『彼岸島』をやめて他のものを描きたい! って思ってしまうことはありますか?
松本光司
ないですね。今は全くないです。
松本光司
よく聞かれるんですが、逆に他の人がなぜ他の漫画を描きたくなるのかがよくわからないです。
読者に「長すぎてもう読みたくない!」って言われたらやめるしかないけど、今すぐ自分からやめたいとは全然思いません。
多分、僕は何かしら思いついた面白そうなことを、「新しい漫画で」とは思わず、彼岸島のストーリーの中に入れて消化するのが得意なんだと思います。
恋愛モノでもなんでも、思いついた描きたいものはスキを見て全部入れちゃっています。
だから新連載を描きたいなんて全く考えないですね。
佐世保太郎
そうなんですね。
松本光司
描きたい感情なりシーンなりを思いついたとして、それを形にするにはまず、読者に世界観や主要キャラクターを認知してもらわないといけません。
多分それが連載で最も大切で、最も大変な作業だと思うんですよ。
松本光司
連載当初は、明や兄貴以外のキャラクターをしっかり描こうとすると「誰が主人公だかわからなくなる」という問題がありました。「読者を混乱させてしまう」と。
ただ自分としては、他の人間にも、更には敵にも考えがあって、コンプレックスやら嫉妬心やら様々な人間臭い感情が渦巻いているはずだと思っていて。それが漫画内でしっかり表現できなくてずっと歯がゆかったんです。
松本光司
ところが『彼岸島』の世界観がしっかり認知されてくると、もう混乱されることもなく、もっと複雑な状況や感情もスッと理解されるようになってきたんですね。
例えば最近の蟲の王編の勝次の尻尾の先に向かう件などは、一話の中で明はほとんど登場していないんです。あのときの主人公は完全に勝次だと言っていいと思います。
でも、誤解や混乱は生じていない。認知されればされるほどに、自分としてはいろいろなことができる。どんどん表現が自由になっていく感じがあります。
松本光司
僕にとって『彼岸島』は、世界観もキャラクターも大好きで、とても自由に表現できる場所です。
だからあえて他の世界観で一から描きたいなんて、ありえないです。

第3回はここまで! 次回はいよいよ最終回! 『彼岸島』シリーズがなぜ、こんなにも長く続いたのか、そのウラ話にご注目! 来週をお楽しみに!