「講談社コミックプラス」に掲載されたヤンマガ作品のレビューをご紹介!!

『百合の園にも蟲はいる』原作:羽流木 はない 作画:はせべ so鬱

うら若き乙女達が青春を謳歌する女子校ーー。そこは悪魔の巣窟でした☆ 教師としてやってきた俺は、この百合の園では虫……いや、それ以下の存在だ。くっそぉ女子高生ってマジで何考えてるかわかんねー‼ 熱血にもなれず、かといっていっそ諦める事も出来ない……そんなどうしようもない俺を誰でもいいから笑ってくれ!


「夢のハーレム編」は始まらない


名門女子高校に勤務する独身男性教師が、外野から言われがちなことと言えば‥‥



しかし実際はこうである。



主人公「円谷」の、熱い理想も出る幕なしだ。


可愛くてエロくてアオハルで‥‥。何かとキラキラした付加価値を乗せられがちな女子高生だが、それはほんの一面。実際には、修学旅行で今の今まで穿いていたジャージをなぜかなくしたり、パンの購買にショートカットするために2階から飛び降りたりもする(筆者調べ)。若いって自由だ。
『百合の園にも蟲はいる』は、女子校を舞台にしながら、男性教員が女子高生にモテモテ♡な夢のハーレム漫画でも、シリアスなサスペンス漫画でもない。「酸い」と「甘い」の奔流が押し寄せるコメディだ。

私立聖マルイノ学園は、カトリック教育を掲げ続けて75年の超名門・お嬢様学校。公立高校から赴任してきたばかりの円谷にとって、ここは宇宙人とも悪魔ともつかない女だけの秘密の花園。何から何まで慣れないことばかりだ。




若さを武器に、どこまでも自由気ままな彼女たちが何を考えているかちっともわからない。あいつらみんな宇宙人なのか‥‥? クラスメートから「地味林」と呼ばれ、気弱に見える林さんに声をかけてみればこれである。クラスに漂う隠し事の気配も円谷の頭を悩ませる。



イジメに対して、ちょっと心配がすぎるように見える円谷だが、彼にはトラウマとなる辛(つら)い過去があった。



こんな過去のことや仕事への本心は友達にも話せていない。なのに、飲めば仕事の話になるから悪酔いしてしまう。路上で吐いていた円谷の前に、生徒の1人・笹生が現れ、ある取引を持ちかける。



生徒たちの“放課後”の盗撮動画を、サブスクでいかが? といういかがわしさしかない誘いだ。



お試しとして見せられたのがこれである。すでにヤバそう。
教室で服を脱がされるなんてやっぱりイジメ? イジメを見て見ぬフリをするのと、高校教師が盗撮動画に手を出すの、どっちがやばい? どっちもだ。取り乱す円谷。

悩みながら寝落ちすれば、助けられなかったあの子が実は生きていた‥‥そんな都合の良い夢を見る。


迷いながらも、円谷は笹生の誘いに乗るのだった。



ギャン泣きしながら進め


序盤の流れでは不穏なサスペンス色の強い作品に見えたが、予想を裏切り斜め上の方向に話は進む。


ハチ公前の待ち合わせもこの花束も、絶妙にセンスがなくてウケる。ただこんなことをしていても、円谷は女子高生たちをエロい目で見ているわけではない。この日も、決死の覚悟でここにいる。でも、円谷がピュアな心で生徒のために尽くす「いい先生」かと言われれば、それも少し違う。生徒間のいじめや、問題行動に目を光らせるのは



これだけの理由だったりする。誠実で、教育への理想もあるけど、行動の基準となるのはほとんどが自分のエゴだ。でも、エゴだとしても、なりふり構わず行動できる熱量が、円谷にはある

女子高生たちは宇宙人でも悪魔でもないが、円谷が女子の生態についてもわりと鈍感なためか、振り回されてしまいがちだ。クラスメートの盗撮動画を売りつけるくせに、ちょっとしたところに育ちの良さが出ちゃう生徒の可愛い一面をイマイチくみ取れなかったり、



地味で大人しい林さんが、なぜかハイブランドのお財布を持っていることに気づいて動揺したり。


 
財布のブランドには気づくのに、生徒が「おなか痛い」とプルーンジュースを飲んでいても、その意味は全く伝わってないのがまた円谷っぽい。

ちょいちょい出てくる「女子高あるある」にもニヤニヤしてしまう。女子が大きな声で笑うと、男性教師ってなぜビクッとするんですかね‥‥。





すぐ気が散ってインスタ見ちゃうのもあるあるだ。この「敦子のストーリー」は、各話ごとに挟まれるおまけイラストで見れる。確かにヤバいのでぜひ見てほしい。
こんな生徒たちとの個性と、円谷の誠実さゆえの、大人としてイマイチ賢くない行動の化学反応で生まれるドラマと笑いがすごく好みで、つい何周もリピートして読んでしまった。



生徒からは「ギャン泣きだけど大丈夫?」と気遣われ、



校長先生には「ホウレンソウちゃんとしろよ」とクギをさされながら、



なりふりかまわず情けなくあがく円谷の余裕のなさは、1周回って格好いい。



※こちらの記事は講談社コミックプラス2/12更新の記事を再編集したものです。

レビュアー / 中野亜希
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
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