伝説のクルママンガ『頭文字D』の名勝負を選出した「頭文字D名勝負列伝」が、読者のアンコールに答えて復活! 第18回目となる今回は、拓海がハチロク以外のクルマで見せた珍しいバトル。相手は名もないキャラクターだったが、拓海の実力と成長が垣間見えたショートストーリーを紹介する。

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一


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【登場車種】


■先行:日産・シルビア(S13型)
→乗員は男女のカップル。男はキャップを後にかぶった、茶髪でロンゲのチーマー(←懐かしい)タイプ。女もかなり明るい髪で、厚底サンダルを履き、「ROXY」Tシャツを着た(当時よくいた)ギャルタイプ。お似合いの2人だが、いろいろな意味で相手が悪かった。塚本曰く「赤城の常連ですごいうまい奴」なんだとか。

■後追い:日産・180SX

→ドライバーは藤原拓海。助手席にはオーナーの塚本先輩、後席になつき。パッと見ふるノーマルっぽいが、ホイールとマフラーは変えている模様。なつきが「かっこいいクルマ」などとめちゃくちゃ褒めまくったことで、拓海が運転させてもらえることになった。


【バトルまでのあらすじ】


赤城レッドサンズのケンタの挑戦を退けた後、今度は当時の最新4WDスポーツであるランサーエボリューションIVとのバトルも制した拓海とハチロク。“秋名のハチロク”の名は、群馬エリアを超えて他県でも知られるようになってきた。

束の間の休息とばかりに、なつきと街中をブラついていた拓海は、サッカー部の2年先輩だった塚本に出会う。180SXを愛車とする塚本は走り屋を自称し、当然ながら拓海の腕前を知らないため、赤城山でのギャラリー(走り屋の見学)へ誘う。なつきが行きたいと言ったため、その夜、なし崩し的に3人で赤城山へ出かけることになった。

しかし、その道中で塚本のあまりにもレベルの低い走りに同乗したため、ヘタサ加減にびびる拓海と、酔ってしまうなつき。頂上につき、拓海と塚本が見学へ行くなか、なつきはひとりで休むことになる。すると、たまたま車外でフラついた際に近くにあったシルビアS13にぶつかってしまう。

オーナーのカップルにひたすら怒られ、なじられたところで、やっと解放されたが、なつきの心情的には穏やかではない。たしかに自分が悪かったとはいえ、「サイアクな気分‥‥めちゃめちゃブルー」と半泣きになり、帰途は拓海に運転してもらうよう塚本にお願いする。

拓海の運転によってなつきが落ち着きを取り戻したところで、先ほどのカップルが乗ったS13シルビアが、拓海たちの乗る180SXをパスしていく。「拓海くん!! あのクルマ追って!!」カップルの存在に気づいたなつきが叫ぶのであった。



【バトル考察】


奇しくも同門(兄弟車)対決となったこの2台の戦い。いろいろな要素が詰まった情報量の多いバトルだが、ひとつずつ解説していこう。まず乗員について、拓海が運転する180SXは3人乗車だが、対戦相手のS13シルビアは2人乗車。乗員1人分の重さのハンデを背負っていることになるが、後席にも重量がかかることで、リアのトラクションには好影響ともいえる。

また、普通に考えれば、拓海が自宅のハチロク以外、ほぼ運転したことがないのは不安要素である。ガソリンスタンドでアルバイトしているため、洗車などで移動のために運転することはあるかもしれないが、たいした影響はないだろう。

しかし、かつて一度だけ池谷本人にせがまれて彼のS13を運転したことがあり、S13シルビアと180SXがプラットフォームを共有する兄弟車ということもあって、それが180SXに慣れるのに時間がかからなかった要因になっているかもしれない。ま、拓海ほどの超人ならそういったことはあまり関係ないのかもしれないが(笑)。



さらにこのバトルは、まだ正式には付き合っていないが、拓海のなつきへの想いの強さがよくわかるエピソードとなっている。なつきの意見や希望はすべて叶えようとする拓海。オーナー塚本の意見は無視してでも(というか耳に入っていない)、相手を追えと言われれば素直に追う。このあたりに垣間見える、若さ、そして情熱がまぶしく、また中年世代からすれば懐かしい。

そして、拓海がなつきに「やってみる」と言うなり、急加速を始める180SX。拓海は180SXをまるで自分の愛車のように操り、ドリフトさせながら、巧みに下りコーナーを攻略していく。助手席で塚本が「ぎょええええ~っ」と叫び続けるなか、拓海は「よーし、だいたいわかった」と余裕の表情だ。なお、超スピード領域を体験したなつきは、「す‥ごい!! なにこれ!?」とトランス状態で恍惚の表情を浮かべている。

あっという間に追いつかれたS13シルビアの車内では、カップルの女が「なにやってんのよォー。追いつかれてるじゃない」と怒るが、男は「めちゃくちゃに速い‥‥レッドサンズのトップクラスレベルかも‥‥何者だあの180!?」と驚愕している。一方で余裕の拓海は「かなりうまい奴だけど抜けない相手じゃない」と敵の実力まで把握していた。

さらに、「あんまりのんびりしてるとブレーキ終わる‥‥効きがいい今のうちに一回こっきりの超ヤバブレーキングでしかけるか‥‥」自己分析した拓海が、まだ峠バトルへの慣れがそれほど十分ではないにも関わらず、しっかりと成長している姿を見せる。

そして、「勝敗は‥‥一瞬にして決した!!」(ナレーションより)。コーナー入り口でここぞとばかりにインをついた180SXに対し、S13シルビアはターンインに失敗してアンダーステアを発生させてしまう。追い抜きざまに「バーカ」とひどいヤジ(笑)を飛ばしながら舌を出しておどけるなつき。それを見て、さっきいじめた女だと気づいたカップルはショックを受けるのであった。



バトル後、拓海は「それにしてもパワーあるクルマだとやっぱラクだよな‥‥直線で相手についていけるだけの馬力があれば‥‥何もかも全然変わってくるのに‥‥」と考える。これが、その後のハチロクのエンジン載せ替えにつながるフックとなってくるのだが、それはまた後の話である。

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