伝説のクルママンガ『頭文字D』の名勝負を選出した「頭文字D名勝負列伝」が、読者のアンコールに答えて復活! 通算で19回目となる今回は、バトルというほどの激しいせめぎ合いはなく、また2台のドライバーの実力にも圧倒的な差がありすぎた、本作でも珍しい雪中バトルを紹介していこう!

文/安藤修也
マンガ/しげの秀一

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【登場車種】


■先行:トヨタ・セリカ GT-FOUR(T200型)
→ドライバーは御木(みき)という名の青年。拓海となつきにとっては、かつて所属していたサッカー部の先輩で、なつきの元カレでもある。現在は都会で大学に通っていて、茶髪にガングロ、アゴ髭と、ギャル男としての完全体になっている(笑)。愛車の6代目セリカGT-FOURは、バケットシートが搭載されるなど、ライトチューンが施されている。

■後追い:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)

→ドライバーは藤原拓海。なつきの性事情を知ってしまい自暴自棄になった後、エンペラー・須藤にバトルを挑んで完敗した挙句、ハチロクのエンジンを大破させてしまう。エンジン換装後、徐々に慣れてきたところで、冬になってハチロクはスタッドレスタイヤを装着。さらに車高を上げてサスのセッティングも雪道用に変えている状態だ。


【バトルまでのあらすじ】


埼玉で秋山渉とのハチロク(レビンとトレノ)対決に勝利した拓海は、須藤のランエボIIIにリベンジ。さらに親子二代の宿敵となる小柏カイも討ち果たし、群馬のカリスマである高橋涼介から県外遠征プロジェクト(後のプロジェクトD)に誘われるなど、走り屋的には充実の日々を送っていた。

そんなある日、拓海となつきの先輩であった御木が地元の秋名へ帰ってきた。警戒心の少ないなつきは、誘われるがまま御木のクルマの助手席に乗ってしまい、結果的に拉致(!)されることに。雪がしんしんと降り積もり、ひと気のない秋名湖。なつきはなんとか車外へ逃げながら拓海に電話をかけるも、すぐに御木に捕まってしまう。

山を降りて場所を変えようと、なつきを無理矢理乗せて走り出すセリカGT-FOUR。しかし先程の電話で「湖」とヒントを聞いたことから、秋名山を駆け上がってくる拓海のハチロク。ついに2台は山麓で交錯するのだった───。



【バトル考察】


セリカGT-FOURとハチロクの2台がすれ違い、ドライバー同士の目が合った瞬間からバトルは始まる。助手席に乗っていたのがなつきだとすぐにわかった拓海は、レーサーばりのするどいサイドターンをかまして、瞬時にセリカGT-FORUを追いかける形をとった。

一方、御木のほうも拓海を認識しており、かつて自分を殴った後輩のことを苦々しく思うと同時に、その存在に脅威を感じていた。ただ、御木もどうやらそこそこクルマに詳しかったらしく(当時の地方在住の若者なら当然とも言えるが‥‥)拓海の乗ってきたクルマが(車名は忘れていたが)FRであることを知り、安堵している。

なぜなら、「オレはFRがどんなに雪に弱いかよおく知ってんだ‥‥!!」「残念だったな。あんなクルマじゃ、このクルマについて来るのはムリだ。なんたってこっちあ‥‥4WDだからな」と、その理由をなつきに得意げに語る御木。彼の発言を証明するかのように「ホアシャア」と轟音を立てながら、セリカGT-FOURは加速を強めた!


それもそのはず、セリカGT-FOURといえば、90年代にトヨタがWRC参戦のためのホモロゲーションモデルとして発売したセリカのハイパフォーマンスモデルである。255馬力を発揮する2.0L直4ターボエンジンに、ミスファイアリングシステムやスーパーストラットサスペンション、大型リアスポイラーを含む専用エアロパーツまで装着したフルタイム4WD車に、約10年前のモデルであるハチロクが雪道でかなうはずがない

多少なりともクルマを知っていれば、誰もがそう思うはずである。御木の強気も決して間違ってはいないのだが、今度ばかりは相手が悪かった。群馬最強のダウンヒラーは雪上で不利と言われたFR車に乗り、華麗なドリフトを決めながら、あっという間に最強の4WD車に追いついてきたのである。

「ありえねえ!! 4WDが(雪道で)FRに追いつかれるなんて!!」(御木)。たしかにこの御木の意見は間違っていない。しかし拓海は雪が降っていることなど気にしない。「キンコン」と警告音が聞こえる車内で、クールフェイスのまま雪のなかを駆け降りていく。そう、拓海はもう何年も前から、雨が降ろうと雪が降ろうと、配達のために走り続けてきたのだ。

「ちっくしょお、4WDのすごさを見せるのはこれからだぜ!!」と御木が叫んだのも束の間、テールトゥノーズでハチロクにピタリと付かれたセリカGT-FOUR。御木が「これならどーだあっ!?」と思い切ってステアリングを切ったが最後、オーバースピードのため車体は曲がらず、セリカGT-FOURはガードレールに衝突してしまう。

そのままハーフスピンを喫するセリカGT-FOURに衝突するかと思われたハチロクだったが、ここで拓海は「ふう」とため息をつきながら、いとも簡単にセリカGT-FOURをかわしてしまう。このあたりの余裕は、なんだか父・文太を感じさせるものがある。

そして停車後、セリカを見て「前がへこんだくらいで‥‥あの感じだとたいしてダメージないだろうな‥‥」と推察する、クールで冷静な拓海。助手席から逃げ出してきたなつきを隣に乗せると、うなだれる御木を放っておいたまま(笑)、山を降っていくのであった。



あまりにもあっけないといえばあっけない。しかし、雪中のバトルというのはこの作品では珍しく、また、勧善懲悪エピソードでもある。さらにいえば、このエピソードは拓海の人生にとってひとつのターニングポイントでもあった。この夜、好きな人に「おまえのこと好きだから‥‥!!」と伝え、2人の仲は急激に進展していくことになる、気持ちよくも甘酸っぱいバトルなのだ。

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