クルママンガの金字塔、『頭文字D』(しげの秀一著)を彩る名勝負を紹介していく本連載。
今回は、主人公の拓海が「プロジェクトD」に参加した後、栃木の「東堂塾」との間で勃発した実力派チーム同士のバトル。最終的に、プロレーサーを巻き込んで大騒ぎに至るのだが、さてその顛末は?

(第21巻 Vol.244「第1コーナー」~Vol.257「怒涛のゴール(後編)」より)。


文:安藤修也 マンガ:しげの秀一

過去回はこちら
連載第1回 激闘の「vs.RX-7(FD3S)編」



【登場車種】

■先行:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)
→ドライバーは藤原拓海。ついに高校卒業。そして、「いずれプロのドライバーになる」と意中のなつきに告白し、その夜、なにか別のものも卒業!? 目標実現のため「プロジェクトD」に参加する。グループAのエンジンが搭載されたリボーン・ハチロクは、今回、バトル前にカーボンボンネットを採用して軽量化を実施。

■後追い:ホンダ・シビックタイプR(EK9型)
→ドライバーは舘智幸。東堂塾OBのなかでも「伝説の男」と呼ばれるほどの実力を持つ。現在はプロのレーシングドライバー(カテゴリーは不明)だが、壁につき当たり煮詰まっている状態。搭乗するのは「デフがガリガリいう」レーシングカーのようなチューニングが施された東堂商会のデモカーだ。


【バトルまでのあらすじ】

高橋涼介が県外遠征チーム「プロジェクトD」を立ち上げた。メンバーに誘われたものの、いまいちふっきれない拓海。しかし、単独で須藤ランエボを撃破し、続いて親の代からの因縁、小柏カイMR2を撃破。ホクホク顔で「プロジェクトD」へと加入した。

 今回、この「プロジェクトD」が勝負を挑んだのは、元ラリーストのショップ社長が始めたドラテク教室がベースの「東堂塾」。涼介が「エンペラーの須藤レベルがゴロゴロいる」と警戒するも、「現役最強」と名高い二宮大輝シビックタイプR拓海が撃破し、高橋啓介RX-7酒井インテRターボに勝利した。

 ショックの東堂塾生たちは、東堂塾のOBで、現在プロレーサーの舘智幸パイセンに連絡。大輝のシビックに乗って、拓海のコースレコードをあっさり塗り替えるも、「シロウト相手に公道レースをやるつもりはない」とつっぱねる。しかし、「お前が欲しがっている答えが見つかる」と東堂会長の口車に乗……説得され、参加を決意! いよいよ真打ち登場となる。

 東堂塾からプロジェクトDヘ届いたリベンジバトルの条件は、「上りと下り半々の複合コース@栃木」と「ドライバーは一人のみ」。涼介は、拓海啓介のどちらが走るかは現地で決めると言い放ち、FDハチロク両車がスタンバイ。そしてバトル当日、参加車は……まさかのハチロク!! 当然、東堂塾もパワーのあるFDがでてくると思い込んでおり、肩透かしをくらう。
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【バトル考察】

 いざ、バトルは横並びでスタートするも、第一コーナーはハチロクが奪取。それを見ていた東堂塾長は、「トモユキは本気でアクセルふみきってたかどうかあやしい」と、その自信に揺るぎなし!

 ここで、「このコースは4つのセクションにわかれている」と東堂塾酒井による解説が入る。第1セクションはセンターラインのない狭い区間、第2セクションはコース幅がありラインの自由度がある、第3セクションはきついダウンヒルで4連ヘアピンを備える、橋を渡ると第4セクションできつい上り。この4つのセクションを往復してゴール。ありがとう酒井くん!
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第1、第2セクションでは様子見をしている。レーシングスーツを着てバトルに臨むほどマジッぽさを感じさせておきながら、後方からハチロクに対してダメ出し(笑)。結論、「バカバカしい、これ以上は時間の無駄」ということで、第3セクションでついに仕掛ける。

 4連ヘアピンで、「ドン」と横に並ばれ、あっけないくらいにズバッといかれた。理由は「消えるライン」。ここで、実はバトルをこっそり見ていた(笑)、エンペラーの須藤によれば、前走者の視界から見えなくなるライン、それはつまりミラーの死角をついて最短距離をカットするラインのこと。「サーキットでも使われる高等技術」なのだそう。

 そのまま第4セクションに入るも、ハチロクは離されずにシビックについていく。ストレートの速いFDとのバトルを想定していたため、シビックは低速コーナーでギア比が合っていないためだ。そして拓海も、抜かれてから集中力が増してきている。ここで折り返し地点。スピンターンする2台の描写がシビれる!

 拓海は考えた。抜けない。どうやっても抜けない。それなら、さっき抜かれた時みたく、相手の視界から消えてみよう。なんと、ここでハチロクはヘッドライトを消灯! 暗闇に姿を消すと、スッとシビックの横に並び、そのまま前に出た。なんとも画期的。も「ストリートでしか使えない奇想天外な忍者戦法!」と驚きまくりだ。
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「一度抜かれたクルマに峠で抜き返されたのは初めて」と、ついにが本気に。第4セクションを抜け、第3セクションへ。ヘアピン4つめでハチロクにボディを当て、姿勢が乱れたところをブチ抜くのだった。曰く「レースではよくあること」。ぐぬぬ。

 せっかく追い抜いたのにすぐ抜き返されるという、クロスカウンターを食らった拓海は、「まるでブ厚い鉄のカベ」とちょっと泣きそうに。そしてゆるい下りの第2セクション。路面がバンピーなため、スタビリティの高さで有利なシビックが、ハチロクを一気に引き離しにかかる!

 ここで何を思ったか、先ほどと同じ忍者戦法(?)をとるハチロク。しかし、今回は消灯時間が長い。先行車(シビック)のヘッドライトをたよりに、真っ暗な峠道を走り続ける。そんな常軌を逸したパフォーマンスに、が初めて拓海のことを脅威に感じる。刹那、はスペースを与えないライン取りに変更する。あとはタイトでツイスティな第1セクションのみ。もう追い抜きポイントはないのだ!

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ゴールまであとコーナー3つ。しかし、タイトな右の立ち上がりで、なぜかシビックがブレーキをふみ、ガードレールへ寄った!? ハチロクはここで横に並ぶと、最終コーナー手前でヘッドライトを点灯! うおぉ、読んでいるほうも、ページをめくる手が止まらないぃぃぃ! 最終コーナーを抜けると、なんとコースは上り勾配!! の「ついてねえときゃ…こんなもんか…」のセリフとともに、勝負あり。

 日頃はトゥーシャイシャイボーイの拓海が、最後のブレーキの理由についてに尋ねると、イタチか何かが「道路を横切った」のだという。ヘッドライトを消していたハチロクには見えなかったのだ。「勝利の女神を感動させる何かが今日のお前にはあった」と吐き捨て、ナイスガイは去ってゆく。

 バトルを勝利するには、強い意志と弛まぬ努力はもちろん、ほんのちょっとの幸運が必要だった。ヘッドライトの消灯と幸運。これこそ、先の見えない時代を生き抜くためのヒントである(←なんのこっちゃ)。

 そして、名勝負に花を添えたのが、バトル後、「プロジェクトD」のウェブサイトに今回のバトルが公開されなかったこと。レーシングドライバーとしてのの立場を涼介が思いやったのだった。ハートウォーミング!


■『頭文字D』&『MFゴースト』情報

『頭文字D』作品ページ
『MFゴースト』作品ページ



※こちらはベストカーWebの記事を再収録した記事です。
https://bestcarweb.jp/feature/books/162109