クルママンガの金字塔、『頭文字D』(しげの秀一著)を彩る名勝負を紹介していく本連載、今回は、ハチロク同士が争う注目のバトルを紹介します。

 主人公の愛車がエンジン載せ替え! という号外的ニュースに、チューニングの方向性が真逆な2台の勝負、さらに親友・イツキの恋までもが、同時進行しながら複雑に絡み合い、最後にまとめてすべての決着がつくという、韓国ドラマもビックリの「ザ・ドラマ」を紹介しよう。
(第13巻 Vol.134「彩の国 埼玉(意味不明)」~Vol.143「予期せぬ幕切れ!!」より)。

文:安藤修也 マンガ:しげの秀一

過去回はこちら
連載第1回 激闘の「vs.RX-7(FD3S)編」


【登場車種】

■先行:トヨタ・カローラレビン(AE86型)
→ドライバーは秋山渉。お、今度のライバルはルックスも中身も素敵なお兄さんかぁ……と思いきや、愛するハチロクのこととなると「ちょ、待てよ!」と言わずにはいられないタイプ。愛車のレビンはターボチューンで280馬力(連載当時の国産自主規制値!)を発揮し、「群馬エリアにはオレが探してる何かが確実にある……!!」と、見えない力に引き寄せられて群馬に来た。

後追い:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)
→ドライバーは藤原拓海。先だって行われたランエボⅣとのバトルでエンジンをぶち壊してしまい、涙にくれた。父・文太の手により、ついに新エンジンが搭載されたものの、「乗りにくい」「パワーがない」と走る前からネガティブ発言を連発し、先行き不安……。

【バトルまでのあらすじ】

 愛車ハチロクの新エンジンの正体が掴めずに悶々としていた拓海だが、から「こいつは本格的なレース用のエンジン」、「回転を上げて馬力を絞り出す高回転型のエンジンなんだ」と丁寧なご解説をいただく。結果、「運転の技術がすごくても……おまえには走り屋として大事なものがポッカリと欠けているぜ!」との怒りを買う羽目に(笑)。どうもさん、拓海の神業テクニックの片鱗を目の当たりにして頭に血が昇っちゃた様子だ。

 早速、高回転用のタコメーター(回転計)をつけることにした拓海だが、実質、取付作業をしてくれた池谷先輩(←超いいヤツ)から、「上限の回転数を把握してなけりゃエンジンを壊す」とトラウマを突きつけられる。意を決した拓海の表情を見た文太はひと言、「一万一千回転までキッチリ回せ!!」。全読者が文太の親心に感涙させられた名シーンである。準備が整ったところで、はるばる埼玉までエンヤコラ。

【バトル考察】

 がバトルの舞台に選んだのは秩父の山奥。走行経験のある彼自身が、「ひどくせまいうえにいやになるほどトリッキー」と語るほどの難コースである。しかも、1本ごとに前後ポジションを入れ替えながら、互いの気が済むまで走るという、過去にが「3回ゲロはいた」ほど過酷なルールだった。

 先行・、後追い・拓海の並びで2台のハチロクがコースインし、レビンのハザードとともに勝負の幕が開ける!
 ターボチューンのレビンは、荒れに荒れた路面に手こずりながらも、驚異的なスピードでかけ抜ける。一方、“ドッカンターボ”のの変則的な動きにリズムを狂わされ、これまでに走ったことのないほどの酷道にてこずり、さらにエンジンの高回転ゾーンも初体験と、拓海トレノには不利な条件が3つも揃っていた。

なんとかについていく形で1本目を終えたが、休む間もなく2本目がスタート。ポジションを入れ替えて前に出た拓海は、「こんなコースじゃいくら無理してもレビンをちぎれない」と(負の方向に)ひらきなおるのだが、逆に開き直ったことで、落ち着きを取り戻し、何かに気づく。

 それは、今までリボーン・ハチロクに感じていた「乗りにくさ」の謎だった。もともとエンジン載せ替え時に、高回転向けセッティングに仕立てられていた足まわりが、初めて高回転域のパワーを使って走ったことで、拓海の「乗りにくい」感覚を「乗りやすい」に変えていたのだ。

 そしてバトルが3本目の後半になると、ついに2台のマシンのタイヤが劣化し、グリップを失い始める。どちらも強力になったエンジンパワーに対して、タイヤへの負担がダイレクトにきた格好だ。
 ここで、扱いやすさ含め、他のすべてを捨ててでもターボ(=パワー)を手に入れようとした、かつてのの思いが語られる。そして「何かを求めて前へ進む」という兄の言葉が、イツキとともに待機所で待つ和美の心に突き刺さるのだった。

 4本目、両ドライバーの集中力とスタミナが消費されていく。そして、両車ともコントロールを失いそうな状況になってきたところで、拓海の本量発揮となる。限界領域でのマシンの挙動を理解し、水を得た魚のようにドリフトでギリギリのラインを抜けていく。かつてが感じた拓海の神テクニックの片鱗。もしかすると、あの時すでに勝敗は決していたのかもしれない……。

 運命の5本目、スタートと同時に拓海のセリフ描写が一切なくなる。セリフはスタミナギレを起こしたの心情のみ。そしてコース最終盤、幅が狭過ぎて抜かれるはずのないコース、とタカを括っていたの真横に、トレノが並びかけてきた。「ここは追い抜きとか、そういうのは、なしなんだよ!!」と焦る。思わず「ちょ、待てよ!」と言いたくなる展開!の一瞬の気の緩みをついた拓海、エグい。エグ過ぎるぜ!

 結果が気になって夜眠れなくなったハチロクオーナーが数多くいたと言われるほどの興味深かったバトルは、最後までモチベーションを切らさず、またミリ単位の並びかけにチャレンジした拓海の勝利で決着した。新エンジンは、まさに神エンジンだった。バトル後、帰宅した拓海が、文太に告げる。「あのさ、あんないいクルマだとは…マジで思ってなかったよ」、と。

 一方、バトルの終わりを待ちながらひとり大人になった和美から「今日でイツキくんともお別れ」と言われ、呆然とするイツキの恋も決着。……かに思われたが、後日、イツキ和美と最後にもう一度だけ会い、ある決断をする。最高だよ。やるじゃんイツキ

 文太拓海。そして、和美イツキ。魅力的すぎる人間模様に、今回は完全ノックアウト。バトルはもちろん、キャラクターが魅力的過ぎますよ、しげの先生!


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※こちらはベストカーWebの記事を再収録した記事です。
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