1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながら、ドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本中のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。

当企画では、同作において重要な役割を果たし、主人公・藤原拓海にさまざまな影響を与えたキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。

今回は、主人公・藤原拓海にとって初期のライバル、中里毅を取り上げる。大人気の名車GT-Rを愛車にしながらも、颯爽と負けキャラを演じつづけた男の真髄はどこにあったのか?

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一



■中里毅はどんな人物?

マンガ『頭文字D』において、藤原拓海の好敵手と言ったら、まず高橋啓介を連想する人が多いことだろう。次に、初めて拓海に土をつけた須藤京一、それから2度対決することになった小柏カイなども思い出されるかもしれない。

しかしながら、Vol.10(第10話)で初めて姿を表すと、その後、何度も登場して数度の峠バトルシーンを見せた中里毅が、この作品の礎となっていたことを忘れてはならない。

中里毅は、妙義山をベースとするチーム『妙義ナイトキッズ』のナンバーワン。拓海に負けるまでは、赤城の高橋兄弟と並ぶほど群馬で有名な走り屋だった。また、ナイトキッズ内でもメンバーからは「中里さん」と慕われ、かなり尊敬を集めていたことも窺える。チームのナンバー2である庄司慎吾のみ彼に反発していたようだが、作品を読み進めていくうちに、憎まれ口を叩き合う腐れ縁の友人だということもわかってくる。

初登場時は高橋涼介と拓海とのバトルを観戦しにきただけで顔見せ程度だったが、愛車であるR32型スカイラインGT-Rの勇姿をバックに「群馬最速はオレ達、妙義ナイトキッズだ!!」と豪語しており、読者に強烈なインパクトを与えている。こういった強がった発言をするところが、彼にとってのロックスピリッツの発露であり、話題になるキャラクターなのだろう。


■4WD乗りらしい豪胆な性格

ギョロ目に太眉という体育会系の雰囲気溢れる容姿だが、たくましさのなかにもどこか人の良さを感じさせるキャラクターだった。髪型は、てっぺんを中分けにしながらもサイドは後ろへ撫でつけるというビーバップな80年代風で、たしかに峠にこういう兄ちゃんいたなという感じ。きっと細長い収納型のクシでセットしていたに違いない。

そして中里毅ファンにはたまらない、最高にかっこいいシーンがある。ついに妙義山へ赤城レッドサンズが乗り込んできた際に、高橋兄弟を前にしてこう言うのだ。「妙義の谷は深いぜ。せいぜい命だけは大切にした方がいいぜ」と。まるで任侠映画の1シーン。身体を斜に構えて、ジーンズに両手を突っ込んだ状態で、その姿には覚悟のようなものが反映されている。
実際に高橋啓介のRX-7とのバトルが始まっても、中里毅は「闘争心むき出しの攻撃的なドライブ」(啓介談)で勢いのある走りを表現する。踏んでも安定してトラクションのかかるアテーサE-TSを信じて突っ走る姿は素直にカッコいいし、この男らしさを讃えたくなる。

途中、雨が降るなどアクシデントもあり、結果的に高橋啓介の天才性の前に敗北を喫したことは残念だが、「4WD乗りの意地」が感じられるこのバトルは、世のR32乗りにとって作中の名勝負のひとつに数えられる素晴らしいものだったに違いない。



■中里毅が残した功績

まとまり感のあるデザイン、几帳面ささえ感じられる精密なメカニズム。R32型スカイラインGT-Rといえば、実力、性能ともに当時の国産ナンバーワンモデルであり、日産党のみならず、あらゆるクルマ好きが憧れた世界に名だたる名車であった。誤解を恐れずに言うが、この名車を愛車とした時点で、中里毅が負けキャラであることは決まっていた。

「FRでドリフトする時代は終わった」「ドリフトを卒業した走り屋がグリップで走るのが一番速い」など、中里にはFRを揶揄する発言が多かったが、4WDという強敵をブッ飛ばすFRの姿に、読者はワクワクさせられたのである。主人公の愛車がハチロクというFRを代表するモデルである以上、そのカウンターカルチャーである4WDを駆る中里毅は、敗者にならざるを得なかったのだ。

中里毅というキャラクターの存在が、R32GT-Rの評価に影響したかと言えば、現在まで続く連綿と続くGT-R人気を見るかぎり、GT-Rファンに対してそれほど悪い影響を与えたとは思えない。

一方で、衝撃的なFR車の活躍を演出したことで、当時から流行っていたドリフト人気に拍車をかけ、ドリフトブームを作り上げたこと、そしてさまざまなFR車を峠シーンに溢れさせたことは間違いない。これらは彼の功績でもある。


※この記事はベストカーWebの記事を再編集したものです。



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