漫画家を目指す人に『なんじゃが』の井出先生がアドバイス!
【あらすじ】「本能寺の変」で命を落としたはずの信長は、「死に戻り」の能力を手に入れて超復活! 光秀を越え、本当の天下布武を叶えるために、何度でもトライ&エラーを繰り返す‥‥ッ! 歴史改変上等、戦国タイムリープ大河!
よく晴れたある日のこと。いつもは平穏なヤングマガジン編集部の打ち合わせスペースに、異様な光景が広がっていた。それは、「困った顔の漫画家と、土下座をする新人編集者」—。
『なんじゃが』原作者 井出圭亮さん (以下井出)
『なんじゃが』の原作者。某漫画専門学校の講師を務めていた経験があり、今でも新人作家と接する機会が多い。豪放磊落かつ謙虚な性格で、面白い漫画のためなら何度でもネームを修正する粘り強さと熱さを持つ。最近は『エルデンリング』と海外ドラマ『デクスター』に夢中。
新人編集者T(以下T)
『なんじゃが』の担当編集(サブ)。入社2年目なので厳密にはもう新人ではないのだが、「せめて後輩が配属される6月までは新人でいさせてよ」ってこないだ泣いていた。
井出「打ち合わせをしに来たら、 担当編集者(サブ)が 土下座してるんじゃが!?」
T「お願いします、井出さん! 新人作家の皆さんのためなんです!」
一、作品を人に見せて、感想をもらうべし!
井出「なるほど、話はわかりました。ちばてつや賞(※)でステップアップを目指す新人作家のために、アドバイスがほしい‥‥そういうことですね?」
(※)「ちばてつや賞 ヤング部門」は、日本で最も歴史と実績のある青年漫画の登竜門といわれる新人漫画賞。
T「さすが井出さんっ! 話が早いです! 元漫画専門学校の講師で現役週刊連載作家の井出さんからなら、的確なアドバイスがもらえると思って‥‥」
井出「喝!!!!」
T「ヒッ」
井出「いいでしょう。まず伝えたいのは、人に読んでもらって、感想を聞くということです」
T「(なんの喝だったんだ‥‥)というと?」
井出「新人作家によくあるのが、自分の意図と作品の間のズレに気づかずに、何本も描き続けてしまうことなんです」
T「確かに、一人で描いているとなかなか気づけないですよね」
井出「ここってこう読まれるんだ! だったり、こう読ませるつもりだったのに、伝わっていないんだ‥‥という客観的な気づきを手に入れるために、どんどん人に読んでもらいましょう! それをどう反映させるかは自分次第ですが、次の作品に生かせば必ず成長できるはずです」
T「狙った場所にボールを投げられているか、検証するということか‥‥」
二、打算なく、興味のある題材を描くべし!
T「ちなみに、井出さんが新人だったころはどんな作品を描いていたんですか?」
井出「歴史モノです! 賞の投稿作も、初掲載の読み切りも、初連載作もすべて歴史モノです」
T「そして、現在連載中の『なんじゃが』も歴史モノ‥‥。すごい一貫性だ(飽きないのか?)」
井出「好きなんです、歴史。その時に流行っているものだったり、賞ウケがよさそうなものは別にあったかもしれないけど、それを理由に漫画を描くと浅いものになってしまいますし」
T「その作家らしさ、『アク』が出るのは、やっぱり興味を持って描ける題材だからなんでしょうね」
井出「読んでる人の姿を想像しつつ、その人に自分が面白いと思ったものを、面白く伝えるために時間をかけるべきだと思いますよ。ちなみに歴史モノには飽きてませんので!」
T「ギクッ」
井出「新人の頃は漫画の完成度よりも、他の人には真似できないような『自分らしさ』を優先しましょう!」
三、「ちゃんとした物語」を目指すべからず!
井出「そういえば、初めて賞を取った後、次の作品を描くときに「1作目を超えなきゃ!」って力が入ってしまってたんですよね。これも新人作家あるあるかも知れません」
T「? 気合いが入ってていいじゃないですか」
井出「でも、その気合のせいで7ヵ月もネームが通らなくて‥‥」
T「な、なかなかの難産だ‥‥。原因はなんだったんですか?」
井出「『ちゃんとした物語』を作らなくては、というプレッシャーでしょうか。『命の尊さ、悲哀』を押し出した、少し説教くさい作品になってしまったんですが‥‥」
T「なんというか、身構えてしまいそうですね」
井出「結局、『歴史』と『音楽フェス』という好きなものを掛け合わせたお題で考え直したら、1日でネームは完成してしまったんですけどね」
T「7ヵ月が1日で!? 200倍の早さで完成してる!」
井出「ただ賞を取りに行くというよりも、シンプルに楽しい、描いてて気持ちが乗っかる方向を選ぶのもいいと思いますよ」
T「読者にも刺さりやすそうですしね!」
井出「お話が矛盾しててもいいから、際立ったキャラを描く! それくらいの気持ちでいきましょう」
まとめ
T「いや〜、本当にありがとうございました! 今日教えていただいたことは、 新人作家のみなさんが次の一歩に進む時に必ず役に立つはずです!」
井出「あ、あと最後に一つだけ! ネームは手を抜かずに直しましょう! 僕が見てきた中で結果を出した新人作家たちは、みんなネームの直しを妥協しなかった人たちなんです」
T「『なんじゃが』も、打ち合わせのたびに何度でもネームを直してますもんね」
井出「プロこそネーム直しを怠らないものですから。自分の作品を見つめなおして、ネームを直し続ければ、次のステップに進めると思いますよ!」
T「さすが井出さんだぜ‥‥! では、今週も『なんじゃが』の打ち合わせを始めましょうか! ところで、そろそろ頭上げてもいいですか?」
井出「ずっと土下座してたんだ!?」
(完)
ヤンマガWebで『何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?』を読む!
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