12月4日(月)発売のヤングマガジン1号で、第89回ちばてつや賞ヤング部門受賞作が発表されました。
ちばてつや賞は、その名のとおり、ちばてつや先生が審査をする、年に2回の新人漫画賞。日本で最も歴史と実績のある青年漫画の登竜門です。
今回の受賞作は13作品! ヤンマガWebでは、すべての受賞作を無料公開中です。
また、ここでは、ちばてつや先生による選評も掲載します!

ちばてつや先生総評

今回はヤング部門の最終選考にはめずらしく、やや地味で静かな作品が残ってきたね。ただ、派手さはなくても皆、心に沁みる内容の濃い作品ばかりだったし、それぞれに将来期待が持てる作家たちが揃っていたので今後が楽しみ。注文をつけるとすれば、総じて演出(コマ運び)がやや荒っぽく、一度さらっと読むだけではキャラクターの心情に添いにくい作品が多かった。マンガはどんな内容、ジャンルでも、パラパラっと立ち読みしても伝わってくる読みやすさ、わかりやすさが大事。そのためにプロのマンガ家たちも七転八倒、頭をかきむしって奮闘しているんだ。新人諸君も大いに苦しんで、読者が楽しめる傑作創りに挑戦しよう!!


大賞 賞金100万円
『Retuuurn!!』

西尾 光留  (神奈川県・20歳)  34P
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ストーリー
ヤクザの構成員として働く立川は、同じく構成員の花咲の殺害を命じられる。花咲は所属する組のヤクザを殺害し、逃走していた。二人は同じ養護施設を出て、バッテリーとして甲子園を目指した盟友。花咲の真意を知るべく動く立川。二人の最後のキャッチボールが始まる―。
 
ちばてつや先生 選評
甲子園を目指していたバッテリーの二人が、たった一球の失投から道を踏み外し、裏社会で生きることに。登場する人物の淡々とした静かな演技と、演出が胸に迫ってくるね。命がけの会話をしているのに、ふたりのおだやかな表情が怖い。目映い海辺で立川はどうなったのかな‥‥? 一部、そこだけちょっとわかりにくい演出があったが、こんな友達想いの二人にはこの先、何とか幸せになって欲しいと思えるラストは、いつまでも心の奥に残る作品だ。

2023年12月4日(月)発売 ヤングマガジン1号掲載!
作品を読む

優秀新人賞 賞金50万円
『カネコ・イン・ヤクザランド』

奇沢 あたる  (埼玉県・22歳)  49P
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ストーリー
小さいころから「変な奴」呼ばわりされ会社でも居場所のないサラリーマン・金子。すべてが嫌になり飛び降り自殺をしようとした金子が出会ったのは若いヤクザの山田だった。山田の代わりにチキンランに出場することになった金子を待ち受ける悲痛な運命とは‥!?

ちばてつや先生 選評
幼い時から皆から蔑まれ人生に絶望した金子が、思いもかけずヤクザの世界に適合性を見つけるまでのドラマ。絵に迫力、凄みがあるね。ただ、演出が少々荒く、登場人物の気持ちに寄り添えないテンポでストーリーが進んでしまうのは惜しい。憎い伊藤部長と若頭を刮目させる場面が欲しいところだ。

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優秀新人賞 賞金50万円
『犬を送る』

藤原 ハル  (東京都)  34P
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ストーリー
13年飼っていた愛犬、たまが死んだ。そして同時に、子供のいない私たち夫婦の関係も終わろうとしていた。たまの亡骸を抱えていつも通りの散歩道を歩くと、一緒に過ごした日々が走馬灯のように蘇る。幸せだった日、絶望を味わった日。その愛憎入り混じる記憶の先にあったのは──。問題を抱えた夫婦の喪失と再生を描く物語。

ちばてつや先生 選評
新婚と同時に家族になった柴犬のたまの死をきっかけに、二人の愛が微妙に揺らぐ演出は静かだけど上手い表現だね。二人がどういう仕事をしているのか感じられないので、いまひとつ生活感が伝わってこないのが物足りないが、最後の「たまアジサイ」が大きく育つまで二人の愛も育つことを暗示させるラストは読み手をほっとさせます。

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準優秀新人賞 賞金30万円
『目からビーム』

ハヤシロウ  (岡山県・35歳)  50P
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ストーリー
何の取り柄もない平凡な中学生に、ある日突然「目からビーム」を出せる能力が発現した! その強烈な能力を使って悪を成敗するうち、次第に自分が特別な存在であることに優越感を感じるようになっていく主人公。ヒーローとして観衆から救世主と持て囃され有頂天になるも、彼の身に思わぬ出来事が降りかかり‥!?

ちばてつや先生 選評
マンガはどんな不自然な話でも描くのは自由だし、面白ければ突拍子もないキャラクターも登場させて構わない。この作品は作者が伸び伸びと楽しんで描いているのが心地良いね。ただ、読者はいろいろ戸惑ってしまうかな‥‥? 画力と演出力は充分あるのだから、誰もが納得できる面白い話を期待しているぞ。

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準優秀新人賞 賞金30万円
『都会のカセキ』

真野 ろか  (山梨県・25歳)  42P
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ストーリー
50歳手前のサラリーマン・入鹿は駅で化石を探す少女・蝦野マイと出会う。やりたいことに真っすぐな蝦野と過ごす中で、入鹿は自分の今までの生き方と向き合うことに。

ちばてつや先生 選評
味気ない退屈な日常を繰り返す中年の男性が、いつも通う駅の「壁」に生き甲斐と人生の目的を発見していく展開はなかなか面白いね。願わくは、しょぼくれた男性だけでなく、少女・蝦野マイちゃんの未来も明るく暗示してくれると、更に読後感が良くなったかな。

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佳作 賞金20万円
『太陽が眩しくて』

YUKI  (広島県・29歳)  37P
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担当編集者 選評
姿、中身が同じまま転生したロボットを愛せるのか。このSF哲学を描き切ることが素晴らしいと思いました! 細かい描写、セリフも良かったです。あとは「読者に読んでもらう」ということを考慮し、もう少しキャラクター、結末、読みやすさを意識しましょう。

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佳作 賞金20万円
『ハピネス』

MIKURU  (東京都・27歳)  50P
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担当編集者 選評
実直なメッセージが伝わる丁寧な作品でした! 分かりやすく伝えようとしているのも読み取れます。一方で、丁寧な分、驚きが少なくなったり、テンポが悪くなっている部分も見られます。キャラクターを練って、丁寧さと演出の楽しさを両立できるようにしていきましょう!

佳作 賞金20万円
『何者』

可惜夜 季央  (千葉県・33歳)  50P
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担当編集者 選評
人間の性悪な一面を描き出す意欲作。主人公の教育係である黒沢の存在感と、人を食ったような腹黒さの演出がとても素晴らしかったです。欲を言えば、黒沢のスケール感に負けないクライマックスを展開できるとなおインパクトを出せたと思います。主人公も含め、よりキャラクターを掘り下げた次回作に期待しています。

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佳作 賞金20万円
『ノックオフ・ イン・ユアハンド』

高哉 佳依  (山形県・28歳)  50P
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担当編集者 選評
衝撃的なツカミで一気に引き込まれました。柔らかいタッチの絵とは反対に、セリフ回しには妙なリアルさがあり、期待感を損なわずに読み切ることができ、非常に満足度が高かったです。また、超ハッピーエンドということもないながら、最後にはそれぞれが納得のいく結末に落とし切れているのも実力の高さを感じました。

期待賞 賞金10万円
『未練のトンボ』

齋藤 崚河  (東京都・24歳)  47P
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担当編集者 選評
トンボが恐怖に感じるという視点がすばらしい。シチュエーションも魅力的で、先が読みたくなる。キャラクターを強めようという意図も感じられるが、画力とともにまだまだ伸ばす余地がありそう。プラスアルファのサービス精神を大事にしましょう。

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期待賞 賞金10万円
『友情の契約』

藤澤 三角  (大阪府・32歳)  47P
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担当編集者 選評
社会人になっても「男の子の友情」を忘れない二人が素敵で面白かったです。登場人物のリアル感が伝わってくるのも素晴らしい。もう一歩、キャラクターを愛せる魅せ方をつかめればさらに上を目指せると思います。

期待賞 賞金10万円
『Father's Fantasy』

安宅  (神奈川県・31歳)  40P
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担当編集者 選評
後半の仕掛けが素晴らしい作品でした。コミカルな導入から泣かせるラストまでの振り幅が素晴らしく、父と娘の愛を感じられる名作だと思います。高い演出力は今後の武器になると思うので、あとは画力の向上を!

期待賞 賞金10万円
『キラメキRESTART→』

黒井 真白  (京都府・24歳)  46P
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担当編集者 選評
好感度の高いキャラクターと高い演出力が素晴らしい! 画力をより向上させることと、抽象的な内容にならないように、そしてより読者を驚かせようとする物語を目指しましょう!